広島高等裁判所 昭和57年(ネ)151号 判決
主文
一 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
二 被控訴人らの本件申請を却下する。
三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
事実
第一 申立
控訴人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴人らは「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
第二 主張
次に付加するほか、原判決該当欄記載と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決四枚目(原判決の下欄に記載された数字による。以下同じ。)表二行目の「有害な産業廃棄物に係る判定基準を定める総理府令」を「金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準を定める総理府令」に、同四行目から五行目の「産業廃棄物に含まれる有害物質の検定方法」を「産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法」に改める。)。
一 被控訴人ら
1別紙「北部埋立処理施設環境保全対策要綱」の策定について
控訴人は昭和五七年八月右要綱(以下、本件要綱という。)を策定し、これによつて広島市安佐南区沼田町戸山(以下、戸山地区という。)にごみ埋立処理施設(以下、本件施設という。)を建設する予定と主張している。右要綱は極めて抽象的なものであるが、かような主張があるので、「本件施設の概要」(原判決二枚目表一行目)の内容として、本件要綱を加える。
(なお、原判決は、被控訴人らが工事及びその準備の差止めを求めている範囲(原判決添付別紙第一図面において一点鎖線により囲まれた部分、本件要綱などでいう「埋立総面積」)を「本件予定地」というとしているので、本判決もこれに従うが、右土地の一部で埋立及び関連施設が具体的に計画されている部分(本件要綱などでいう「計画開発面積」)を「本件予定地」ということもある。)。
2本件訴訟の意義について
控訴人が本件施設の建設を計画している戸山地区の自然環境は、一体として複合され、数百年単位の年月によつて形成された広島市民の共有財産であり、その中の水、大気、樹木、地下水等のそれぞれを別個に区分して観察を加えることは可能であるとしても、決してその一のみを対象とし、その影響をとらえて変更を加えることはできないものである。樹木の伐採はその一事のみで地下水の量、流れと質を変えるのみでなく、災害の発生を招き大気の質に重大な影響を加える。本件は、このような目前の自然に恵まれた環境質を破壊し、踏みにじり、再びもとに戻ることのないように変更することが許されるか否かにかかつている。
3被控訴人らの申請人適格について
本件差止訴訟は、本件施設建設によつて戸山地区に水質汚濁、大気汚染及び環境破壊等の被害が高度の蓋然性をもつて予測され、これらの被害により被控訴人らの生命・身体・健康という人間の基本的、原理的かつ絶対的な権利が侵害され、生活環境そのものが破壊されるとして本件施設の建設の差止めを求めるものである。このような公害差止訴訟としての性格を有する本件訴訟においては、地域的関係からみて明らかに申請人適格を有しないと認められる者は別として、そうでない者については申請人適格を認めるのが相当であるから、本件施設の下流に居住するか否か、吉山川の左岸に居住するか否かを問わず申請人適格は肯定されるべきである。
4被保全権利について
土地所有権が被保全権利となりえないとの控訴人の主張の前提には、本件施設が土地収用法三条二七号における廃棄物の処理施設に該当するから、その後は当然に土地収用手続が進行するという論理があるが、本件予定地が当然に収用裁決になるとは一体いかなる根拠に基づいて主張するのか理解できない。さらに、現在は土地収用法三条各号列挙の事業について、単純にその公共性を是認することができないのである。すなわち、控訴人のいう「本件事業の高い公共性」が存するか否かは、単にその事業の有する社会的便益のみを考えるのではなく、他方において周辺の住民の諸権利や生活環境に及ぼす影響を考慮し、更には本件事業は真に必要なものかどうか、代替案が検討されているか等の事情も十分勘案した上で初めて判断されるものなのである。土地収用法所定の事業に該当するというだけで土地収用を論ずることが極めて短絡的な主張であることは明白である。
また、被控訴人らのうち、本件予定地内に自己の所有地を有している者は、その土地の使用管理のため予定地内の林道及び里道を通行し、本件予定地内に所有地を有しない者も代々にわたり林道及び里道を通行してきており、過去何十年以上もの長期間使用しているのであるから、このような被控訴人らが右林道及び里道の通行の妨害となる本件施設の差止めを求め得るのは当然である。
5受忍限度について
一般的に公害訴訟において控訴人の主張する受忍限度論が論じられる余地はない。人の生命・健康は人間の基本的、原理的かつ絶対的な権利であり、この侵害は金銭によつて償うことのできない損失であるから、公共性の要素が考慮される余地はないし、他の要素との比較衡量にも親しまないものである。そして、本件で問われたのはまさに人間の生命・健康であり、その維持に欠くことのできない空気と水、また健康を維持するために必要である快適な環境の問題である。それ故、被控訴人らの生命・健康にまで被害が及ぶという蓋然性が存する以上、本件施設建設の差止めが認容さるべきであることは当然である。
控訴人は、ごみ処理は公共性が極めて高いものであるから、ごみ埋立処理施設の設置は、近隣住民に対し、何らかの影響を及ぼすが、これに対して住民は高度の受忍義務を負うと主張する。しかしながら、この主張には、ごみ処理の公共性からごみ埋立処理施設の近隣住民の受忍を引き出すという論理の飛躍があつて、当該場所にごみ処理施設を設置することの適否の判断が欠落している。ここにいう公共性が何であるかについて控訴人は説明しようとしないが、本来、公共性とは当該公共施設が生産や生活の一般的条件あるいは共同社会的条件であること、特定の個人や私企業に占有されたり利潤を直接間接の目的として運営されるのでなく、すべての国民に平等に安易に利用されるか、社会的公平のためにおこなわれること、公共事業の建設、改造、管理、運営に当たつては、周辺住民の基本的人権を侵害せず、仮に必要不可欠の施設であつても、でき得るかぎり周辺住民の福祉を増進すること、事業の設置、改善については、住民の同意をうる民主的な手続を必要とすることをいうのである。この観点から、本件施設をみると、まずその場所選定、つまり戸山地区にごみ埋立処理施設を設置するという選定手続において住民の同意を得ていないところから右のの点が欠け、周辺住民の人格権、環境権等の基本的人権を侵害することからの点が欠けることになる。したがつて、本件について控訴人が主張するように公共性を理由に住民が受忍義務を負うというのは、何ら根拠のないところである。
控訴人は、さらに、受忍限度論を前提にして、受忍義務の限界は関係法令に規定されている規制数値にあると解すべき旨を主張している。しかし、公害関係法令は、日本全国において大気汚染や水質汚濁が進行し、それ以上放置しておけないところから制定されたという経緯があり、すでに汚染されていた地域を少なくとも規制数値にまで引き下げることが主目的であつたもので、戸山地区のような未汚染地域について、右規制値までは汚染してもよいとするものではない。また、規制数値そのものは、一応は人の健康に影響がでるか否かが考慮されているが、数値は、政治的妥協の産物であり、将来にわたる環境の保全という点からは不十分であり、規制数値以下であつても健康への被害が発生するのはよく知られた事実である。
6立証責任について
本件のように、大気汚染水質汚濁等の公害発生を理由として建設の事前差止めを求める場合は、被害が現実化していないためその立証が困難であるが、殊に、本件施設に関する資料や、これが建設に伴い予想される被害解明のための科学的手段、資力は控訴人が所持していて立証につき有利な立場にあるのであるから、本訴においては、通常人において抱くであろう公害発生へのおそれが被控訴人らによつて一応疎明された場合、公平の理念から、控訴人において合理的な反対疎明をしない限り、公害発生ありと判断すべきである。そして、既に被控訴人らは、先行埋立地の実状などを例にとつて、予想される水質汚濁、大気汚染、環境破壊の三点について立証を行い、本件施設の建設により住民の生活全般に影響を及ぼすのみならず、生命・健康にまで被害が及ぶという最悪の事態を生ぜしめる蓋然性を具体的に立証ずみである。これに対して、控訴人は、地域環境保全の可能性を主張するのみであつて、合理的な反対疎明は十分になされたとはいえない。
7本件施設の必要性について
控訴人は昭和五八年四月一日「ごみ非常事態宣言」を解除することを決めた。すなわち、昭和五一年六月以来全国に先がけて実施してきた一般家庭ごみの五種類分別収集方式、ごみの自家処理などが定着し、昭和四九年度一一三六トン(日量)あつたごみ排出量は昭和五八年度で八三四トンと三〇二トンの減量になる見込みであり、まもなく満杯になる瀬野川埋立地に代わる不燃物処理場を安佐北区安佐町筒瀬地区に計画し、地元住民との間で立地協議の合意をし、昭和五八年六月一二日調印にこぎつけているのであるから、控訴人が本件予定地を必要とする理由はなくなつたというべきである。加えて、本件予定地内の多くの土地を現在なお取得しておらず、かえつて絶対に控訴人には売却しないと意思表明され、付近住民の反対も強いのであるから、控訴人にとつて本件予定地の土地確保は不可能な状態にある。
8本件予定地の地質構造、小島証言及び同報告書、高橋・浦田報告書について
(一) 地質構造検討の重要性について
(1) 廃棄物埋立処理場の建設に際して予測される被害のうち、最も広範かつ深刻なものの一つに水質汚染がある。しかも、本件にあつて特に水質汚染が深刻に検討されなくてはならない理由は、一方において被控訴人ら住民の水利用の特質があり、他方において、本件予定地の岩盤が広島花崗岩という岩盤構造上汚染に弱い地質であることである。
吉山川の水利用形態(「水質汚濁に係る環境基準について」昭和四六年環境庁告示第五九号)はAA級で極めて原始的な利用形態となつている。飲用水には浅井戸、深井戸(堀抜井戸)からの地下水を利用し、吉山川の水は農業用水として稲作、ハウス栽培(地下水も利用している)等にも利用されている。いわば、住民が老いも若きもすべて何らかの形で吉山川水系に生活の一部又は大半を依存しているという特殊な水利用の実態を有している。したがつて、広島花崗岩と命名されている本件予定地底面の地質につき、まず花崗岩の風化の程度により表層にどれ位の層厚の不透水層が形成されているかが検討され、さらに、花崗岩の破砕構造として古期破砕帯における破砕強度(破砕の程度)及び新期断層破砕帯の存在の有無、走向、傾斜等が、裂か地下水の汚染の可能性という観点より検討されなくてはならない。
(2) 広島市の主張する地下水汚染防止策の骨子は、乙第一号証、同第四八号証等によればマサ土の天圧により不透水層をつくるという単純なものである。しかしながら、タンク博士編集による「環境地質学の焦点」(昭和四八年)が著わされて以降、シュナイダーやケラーの論文等にも明らかなとおり、昭和四〇年代の後半より廃棄物の処理と水文地質学的な関係は特に重視されるようになつてきた。これは、廃棄物直下の地質層の性質と構造(透水係数)と岩盤の質とによつて地下水汚染の予見をなしてゆく手法である。
これによると、地下水汚染の可能性の有無は埋立地の底面の地質状況を判定し、不透水層の厚さと程度に規定されることとなる。結論的には学説によりニュアンスの差はあるものの昭和五一年のケラーの「環境地質学」においては比較的不透水性の物質が最少限三〇フィート(約九メートル)必要とされ、更に詳細なコーツの「環境地質学」(昭和五六年)では、この比較的不透水性の層の厚さは一五メートル程度あることが望ましいとされている。
(二) 小島証言及び報告書について
(1) 広島大学名誉教授(岩盤地質学専攻)小島丈児は、右の知見のもとに現地を調査し(原審において証言するに当たり二日間、当審において報告書を作成するに当たり広島大学助教授吉田博直と共に二日間現地を調査した。後の調査に当たつては、あらかじめ空中写真の実体鏡解析によりリニアメントを判読のうえ臨んだ。)、本件予定地の地質構造を検討し、原審当審の証言、当審において提出した「報告書」(甲第一七一号証)、「網干壽夫氏の「広島市北部埋立地調査に関する土質工学的見解」について」(甲第二〇〇号証)(以下、前者の報告書を小島第一報告書、後者のそれを小島第二報告書という。なお、第一、第二報告書を併せて小島報告書といい、証言とこれらすべてを併せて小島証言ということもある。)により、本件予定地の地質構造につき、次のことを明らかにした。
(2) 本件予定地の花崗岩の風化層の厚さを推定すると、別紙第二地図の谷1、谷2、谷3とも、いずれもコーツ、ケラーらが指摘するような不透水層の要件を満たすものではない。すなわち、各谷ともに粘土質マサ帯はなく、谷2上流部と谷3にはオニマサ帯が存するものの、その層は薄く不透水層を独自に形成するに至らない。これは広島花崗岩全体に通じる特徴でもあり花崗岩の風化殼の厚さは、広島県の場合瀬戸内海沿岸地帯で厚く中国山地に入ると薄くなつている。
(3) 花崗岩の風化の程度として、本件予定地がケラー、コーツ論文に指摘されている程度のマサ帯の層厚をもたず、したがつて、不透水層を形成していないとすれば、更に岩盤の破砕構造による地下水汚染の危険性を検討しなくてはならない。
花崗岩には著しく古期破砕帯が発達し、これを新期断層が切つている。花崗岩体における地下水は、風化殼最上位の粘土質マサ帯と崩積性マサを主とする表土との間に浅層地下水があり、軟岩、硬岩から成る岩盤中の古期破砕帯中や新期破砕帯中に裂か地下水として深層地下水が存在する。
これら地下水の汚染の可能性の有無は、古期破砕帯中では、破断面(剪断面)が存在するか否かにより判断され、その可能性の程度については、破砕強度(破砕の程度)による。ずり破断面の密度(破断面の平均間隔)が高いほど汚染の可能性の程度は高くなる。小島第一報告書では、この破砕強度をAA、A、B、C、Dの五段階に区分して検討しているが、まず破断面の存在の有無については、広島花崗岩体には、狭い間隔で、平行あるいは網目状に発達した部分が存することは定説であるし、破砕強度についていえば、谷1、谷2はAないしB級、谷3出口部はC級でいずれも汚染水は著しく浸透し易い条件下にある。しかも、裂か地下水は主として古期破砕帯のずれの面に沿つて移動し、破断面の密度に応じて裂か地下水量も多く、したがつて汚染も拡大する可能性が多くなる。
(4) 次に新期断層についてであるが、網目状のずり破断面群から成る広がりのある破砕帯で示される古期破砕帯と異なり、幅数センチないし数メートルの破砕岩片や土砂からなる明瞭な断層破砕帯である。したがつて、このような断層破砕帯が存するところでは地下水源にいつたん汚染水が達するならば、汚染の拡散は必至である。
しかるに、本件予定地の岩盤には第二地図に示すごとく無数の北東―南西系と北西―南東系の二群性共役断層が、網目状に発達している。この一事をとらえたのみでも、本件予定地は適地性を有しないものというべきである。しかも、裂か地下水系がいつたん汚染された場合、汚染の影響は吉山川断層破砕帯(第二地図(小島第一報告書添付地図)のF1)に及び、この地帯の深井戸の水質汚濁を招き、更に下流部で吉山川に涌出すると考えられることは第二地図のF1断層の走行状況を検討すれば明らかである。
(三) 高橋・浦田報告書に対する批判について
(1) 九州大学教授高橋良平、同浦田英夫は花崗岩石学、構造岩石学、岩盤力学の分野における研究実績がないので、当審で提出された「広島市北部埋立予定地の地形、地質及び地下水について」と題する報告書(乙第七二号証。以下、高橋・浦田報告書という。)には信用力がない。
(2) 同報告書は、風化層の厚さは局地的に変化が著しく、地表調査のみからこれを明らかにすることは不可能であるというが、剪断ずり破断面が発達し、かつ山麓面が発達したところではそのとおりであるが、花崗岩の古期破砕帯上に形成された山麓面における風化殼の成層構造は、ほぼ原浸食面に平行であり、モデル的に推定でき得るものである。また、同報告書は旧期破砕帯の粘土化は熱水変質によるもので、深所でも閉じており、破砕帯の存在が直ちに地下水の通路となるとは断定できないというが破砕帯のずり破断面に沿う粘土化は熱水変質によるものではなく、地表水の浸透による風化であることは、古期破砕帯にボーリングを入れると、例外なしに風化帯の下に裂か地下水があることにより実験的にも裏付けられるところである。
9控訴人主張の環境保全対策について
本件要綱はまさに控訴人広島市の構想であつて、抽象的であるばかりでなく、科学性、技術性あるいは財政的にも裏付けが存しないものである。例えば、重金属をどのように処理するかという一点をとつても何らの具体性もないし、科学的裏付けもない。北部埋立地修正計画書と本件要綱との関連について何ら説明がなく、単に訴訟対策として本件要綱が打ち出されてきたことは明らかである。以下、本件要綱の個々の問題点について指摘する。
(一) 浸出水の良質化対策について
区画埋立をすれば、浸出水が地下浸透しないような適正処理が本件予定地において有効な対策としてあり得るのか、その有効性の裏付けもない。固型化したところで一時的には不溶性となつても長期的に重金属は溶出する。例えば、瀬野川埋立地では、同埋立地の下の井戸水が一〇年経過後の今日もマンガン濃度五PPM前後という高い値を示しており、しかもそれは下る気配をみせず、また同埋立地の周辺の他の井戸もマンガン濃度が0.1ないし0.5PPM位の値を示していることからすれば、その余の重金属もこれから長期間溶出し始めると予測されるのである。
さらに、また、本件予定地には、焼却残渣が埋め立てられる計画であるが、この焼却残渣の中に、水銀、カドミウム等の有害物質が含まれる危険性はいうまでもないことであり、最近の調査の結果ではダイオキシンが含まれていることが明らかにされた。これは、ごみ焼却炉でごみを焼却する際に、主に塩化ビニール製品等が燃える過程で発生するといわれる。
(二) 浸出水の防止対策について
控訴人は、集水管を設置するとか、弱ないし未風化岩盤が浅い場合は、浸出水が裂か系に入り込むことは避けがたいのでシート等による人工遮水をするという。しかし、ごみ埋立は不均一で不安定であり、しかも、分解性のものの場合各シートの遮水効果はどの程度信頼できるか、実際の廃棄物の場合のデーターはあるのか、戸山地区の地盤の硬度、土地の傾斜が把握されているのか、花崗岩等の場合においてもシートは破れないのか等の当然考え得る問題点について解明が全然なされていないのである。ゴム、アスファルト、塩化ビニール等の化学合成物質による遮水効果については、ヴェシリンド・ピアース「環境工学」(昭和五七年)が警告しているように、内張りシートに不均等な応力がかからないように基盤を最大二対一の傾斜(約七二度)まで整形することは、本件予定地のごとき岩盤地帯では事実上不可能で、整形斜面の崩壊を招くおそれも存するし、更にシートの耐久性、材質の劣化、廃棄物埋立層の圧密に対する適応性の問題など未だ科学的に究明されていない不確定要素が多く疑念を抱かざるをえない。また、このような工法による永年の実証的経験もない上に、地下水汚染の実態よりしてもいつたん汚染されてしまうと全く取り返しもつかず、しかも埋立物を後発的に取り除くことは極めて困難であり、まして、跡地利用にまで発展しているような場合除去は不可能である。
(三) 浸出水の処理(放流先河川の汚濁防止対策)について
本件要綱が出している吉山川へ放流する場合の想定値は、目標でもなく、規制数値でもない。まさに訴訟対策として持ち出されたものであり、その技術的、科学的裏付けもない。また、本件予定地は寒冷地であり、冬期には平均気温が零度以下になることもあり、そのため生物処理、活性汚泥の効率低下は必至である。
(四) ガス・臭気対策について
本件予定地には逆転層が発生するのであり、その場合埋立地に隣接する民家等に臭気やガスが滞留する危険性が存する事実を控訴人は無視している。
(五) 防災対策について
昭和二六年のルース台風の際には大規模な土石流が発生し、また昭和五一年九月の一七号台風によつても土石流が起きている。そして、本件施設建設のため本件予定地の森林は伐採されるし、かつ埋め立てられるごみは均一でないから、地盤はより不安定になる。本件予定地周辺に、小・中学校が存在し、民家も存在することを考えると、安全性を確保するためには本件施設自体をやめるべきである。
(六) 搬入、埋立の管理について
控訴人は、搬入の管理として、搬入者に燃えがら、汚泥等には分析表を提出させて搬入するというところ、瀬野川埋立地においては形式的な管理であり、その効果を果たしていないのであつて、この分析表は、搬入者(業者)からすれば、尻抜けの材料になることはあつても、規制にはならない。
10控訴人の上水道布設計画について
控訴人の主張する上水道布設計画には次のような問題点がある。すなわち、被控訴人らを含む関係地元住民が全くこのような上水道布設を希望していない。また、水の汚れは、単にこれを直接飲用に供する人間の健康のみについて被害を及ぼすものではない。その水系によつて成りたつ自然、樹木や草、田畑の作物の成育、自然の中に生きる昆虫や野鳥、小動物に至るまですべての生態系が、その恩恵を受ける循環はあらためて論証を必要としない公知の事実であるといつてよい。仮に、控訴人が計画する水道が実現したとして、それでは田畑の給水さえもまかなえないのである。法律論としても、このような自然の生態系全体に影響を及ぼしかねない水の汚れとそのごく一部をしかも不完全にしかカバーできない水道布設計画の申出を、例えば明渡訴訟における正当事由の補填のような形で、簡単にひきかえにすることが許されないのは明らかである。
なお、一〇億円の水道布設計画は、広島市の財政の総体の中でもバランスを失した無益な支出である。
11環境アセスメントの欠如
控訴人が本件施設建設につき環境アセスメントを実施していないことはすでに述べたところである(原判決一四枚目裏一〇行目から同一六枚目表一一行目まで)が、そればかりか控訴人は、みずから認め、行つているごみ埋立地選定の手順からも大きく踏みはずして本件予定地を選定し、本件施設を建設しようとしている。すなわち、控訴人は、甲第一九二号証にいう「内陸部埋立地位置選定の経緯」所定の手順を経ることなく、本件予定地を選定したのみならず、現在ごみ埋立地として計画が進んでいる安佐町筒瀬地区は、右の経緯を経たうえ、環境影響評価に着手し、その結果を待つて地元と交渉して合意をみた後用地取得の交渉という手順を踏むというのであるが、本件の戸山地区はこれらを一切省略し、昭和四九年末から昭和五〇年初めに地元住民に公表し、同年四月には埋立を開始するという荒つぽいものである。したがつて、少なくとも控訴人は、本件埋立計画を白紙に戻し、前記内陸部埋立地位置選定作業の第一段階である不適地の除外の作業からやり直すべきである。
12瀬野川埋立地の被害状況について
控訴人は、水質汚濁について、瀬野川埋立地の処理水の水質検査が総理府令所定の排水基準を下回るから、本件埋立地においても同様であるかのように主張する。
しかし、同じ場所において広島大学公害研究グループが検査した結果、鉄、マンガンについては水道法による水質基準を大きく上回る結果が出ている。さらに、その後のマンガソ濃度の調査の結果は、昭和五六年一一月に3.1PPM、昭和五七年二月に五PPM、同年九月には3.4PPMという、水道法による水質基準を大幅に上回る数値となつている。この数値は、広島大学城助教授による調査だけでなく、広島市の委託によつて中外医線工業、広島県衛生組織連合会による調査結果ともほぼ符合するものである。
また、控訴人が引用する調査結果は、昭和四九年から同五三年までのものでしかない。廃棄物からの浸水液が地下水を汚染していく過程は長期的なものであり、蓄積される廃棄物による水質汚濁を判断するためにはなお継続した調査が不可欠であることはいうまでもない。
さらに、瀬野川埋立地には、カドミウムや亜鉛、マンガン、全クロム、鉛などの重金属が著しい高濃度で存在している。特に、カドミウムは、工場の排出水質基準(0.1PPM)の実に二八〇倍にあたる二八PPMの高濃度で検出されている。控訴人はこの事実にも触れていないが、瀬野川埋立地と同様の廃棄物を埋め立てる本件埋立地でも同様の汚染が行われる危険性は極めて高いのである。
二 控訴人
1主張の訂正
別紙「控訴人主張に係る戸山地区外住民一覧表」記載の者は、原審以後転居したので、これが戸山地区の住民であることを争う。なお、戸山地区の総戸数は昭和五五年当時で五六九戸である。
2申請人適格の欠缺について
申請人適格は個人の具体的な権利義務に直接関係ある者に限つて認められるものであり、前記一覧表記載の被控訴人らは同表備考欄記載の住所に転居しているから、本件施設の建設によつて何ら被害を被るおそれがなく、またその余の被控訴人らの住所は約九キロメートルにわたつて帯状に散在しており、同被控訴人らのうち少なくとも本件施設より上流に居住する者及び吉山川の右岸に居住する者は、水質汚濁、大気汚染及び環境破壊の被害を被る蓋然性はほとんどないものである。したがつて、以上の被控訴人らの申請は、申請人適格を欠くものとして却下されるべきである。
3被保全権利について
環境権なるものは、その基盤たる各個人の権利の対象となる環境の範囲、環境を構成する内容、性質、地域的範囲等が明らかでなく、したがつてまた、その侵害の意義、更には権利者の範囲も限定し難く、到底私権性を肯定できるものではない。
次に、本件予定地内の土地所有権についていえば、控訴人は、当然のことながら、今後、任意協議により右土地の所有権又は使用権原を取得し、あるいは所有者がこれに応じない場合には、やむなく土地収用法に基づく収用を行つたうえで、本件施設の建設をなす予定である。したがつて、本件予定地内の土地所有権は、控訴人が本件施設建設をなす際に控訴人に移転している(また、仮に、被控訴人らの所有地が取得できなければ、本件施設の敷地から外すことになる。)ものであり、差止めの根拠たりえないことは明白である。
また、本件予定地周辺の被控訴人ら所有土地についていうならば、誰がどこにいくら土地を所有しているのか、その土地に対しいかなる態様の所有権侵害のおそれがあるのかという点につき具体的な主張は全くない。かえつて、本件埋立完了後は、現在の地形が平坦地に変わり、控訴人としては他の埋立地の場合と同様、地元住民の意向に沿つた公共的使用をする方針であるので、所有地の価値が上がりこそすれ、現在よりも低下することはないのである。
さらに、本件埋立予定地内の林道・里道通行権なるものも、差止めの根拠たりえないものであること明らかであるが、その理由は先に(原判決二七枚目表八行目から一三行目まで)述べたところである。
4受忍限度について
人格権に基づき、本件施設建設の差止請求が認容されるためには、侵害の程度が受忍義務の限度を著しく超えるものであることを要し、かつ侵害のおそれは高い蓋然性と具体性を持つものであることを要する。そして、受忍限度を超えるか否かは、被害の性質と程度、防止設備設置の技術的経済的可能性、汚染源施設の社会的必要性・公共性、公法的規制基準の遵守の有無等諸般の事情の総合的考慮により決せられるが、これらの考慮要素のうちでとりわけ重視さるべきものは公法的規制基準である。けだし、公法的規制基準は、環境庁を中心として国の省庁がすぐれた技術と調査結果を結集して、汚染源施設の社会的有用性と環境維持の必要性との調和点としての一定の基準を設けたものであり、右基準以下の有害物質排出を受忍するとの社会的コンセンサスの具体化としての性格を持つものであるからである。
被控訴人らは、用地選定の不合理性、環境影響評価の欠如、控訴人の強権的な工事推進政策が本件施設建設差止めの根拠となる違法事由であるかのごとき主張をしているが、かかる手続的瑕疵を根拠に差止請求権が発生するものではない。用地選定の合理性、環境影響評価の実施、住民に対する説得等は、住民に受忍限度を著しく超える被害発生を理由として差止請求権が認められる場合において、例外的にこれを消滅させるべき事由として考慮さるべきものである。
5立証責任について
受忍限度を著しく超える被害発生の高い蓋然性については、民事訴訟の原則からして被控訴人らが主張・疎明すべきことは当然であるが、特に本件においては、被控訴人らが控訴人の第二次環境調査を拒否・阻止し、もつて控訴人が本件予定地において一切の調査を行うことを不可能にし、そのため控訴人は、公害不発生の資料を得ることができない状況にあるから、立証責任の転換が認容されるべきではない。
6本件施設建設に関する被控訴人ら指摘の問題点について
(一) 本件予定地の地盤における風化層、断層破砕帯と地下水汚染について
(1) 被控訴人らは、本件予定地の地盤には不透水性の風化層が薄く、また、断層破砕帯(古期破砕帯及び新期断層)が存在し、本件施設を建設した場合には浸出汚水が地下に浸透し、地下水を汚染し、ひいては井戸の水質汚濁を招くし、吉山川も汚染すると主張する。
被控訴人らが主張の論拠とするものは小島証言及び報告書である。ところで、本件予定地がごみ埋立処理施設の建設に適するか否かを決するには、地質及び水文地質学的知見とともに土木工学的知見が必要であるが、小島証人は地質学の専門家であつても土木工学の専門家ではないのであるから、右証言及び報告書の信用性には問題がある。
(2) 右証言及び報告書は、シュナイダー(甲第七六号証)ケラー(甲第七七号証)の各論文によつているところ、右両論文は固形廃棄物を捨て積みしようとする個所の比較的不透水性の地層(風化層)の厚さ、地下水位と固形廃棄物底面との位置関係、風化層の下位に伏在する岩盤の性状等によつて地下水汚染は左右される、とする。
(3) 本件予定地の風化殻について
小島証人が本件予定地内で調査した露頭は、谷1で五か所、谷2で四か所、谷3で一三か所にすぎない。しかも、谷1では稜線付近はマサ質であるというのであるから、谷1につき硬岩、軟岩Ⅱ、軟岩Ⅰが確認されたのは合計三か所の露頭にすぎない。また、谷2についても海抜二六七メートル以上の所ではオニマサ状になつているというのであるから、谷2につき硬岩・軟岩Ⅱが確認されたのは合計二か所の露頭にすぎない。さらに、谷3にについても、稜線付近はオニマサ質であるというのであるから、谷3につき軟岩Ⅰが確認されたのは一か所の露頭にすぎない。かかるわずかの露頭で、谷1、谷2、谷3のそれぞれ全体の風化状況を判定し、さらに地下の風化状態まで判断することなど到底不可能である(高橋・浦田報告書の見解によれば、風化殼の厚さは局地的に変化の激しいものであり、地表調査のみからこれを明らかにすることは不可能ということである(乙第七二号証))。そして、廃棄物下底と地下水面が離間しておれば地下水汚染はないのであるから、地下水位の調査が必要であるのに、小島証人はこれが調査をしていないことを自ら認めている。
(4) 古期破砕帯について
小島証言は本件予定地には古期破砕帯が存在するとする。
しかしながら、本件予定地全域に古期破砕帯が存在すると見ることはできず、また、仮にこれが存在しても廃棄物からの浸出汚水が、不透水性のずり破断面を通じて外部に浸出する可能性は極めて低いのである。
小島報告書は、本件予定地におけるずり破断面の破砕強度につき、「谷1と谷2は破砕強度がA級(一部AA級)ないしB級の部分に位置する。谷3では……谷の出口付近がC級、谷の奥ではD級と推定される。」としている。同証人は他方では、破砕強度の分布を判定するには露頭が「やはり一〇〇メートルについて数か所ほしい」というのである。そうすると谷1は全長約一、三八〇メートル(乙第七二号証)であるから最低二七か所、谷2は全長約七三〇メートルであるから最低一四か所、谷3は全長約一、五六〇メートルであるから最低三一か所の露頭がそれぞれ必要になる筋合である。しかるに、小島証人が破砕強度判定に使用した露頭数は、谷1については一か所、谷2については二か所、谷3については一三か所にすぎない。谷1、谷2については小島証人自身が破砕強度判定に必要であるとする露頭数に比べて余りにも少ないことが明らかであるし、谷3についても、わずか一か所の露頭から谷の出口付近をC級としているのは問題である。
そして、本件予定地を調査した高橋・浦田報告書によれば、当地域の旧期破砕帯は熱水変質による粘土化に加えて風化作用がここに集中し、難ないし不透水性の粘土質のマサになつており、また、熱水上昇と時を同じくして半花山崗岩の貫入が起こつており、このときは破砕部は固結し水を透さなくなつているということである。したがつて浸出汚水がずり破断面を通じて外部に浸出する可能性は低い。
(5) 新期断層について
小島証言は本件予定地には新期断層が存在するとする。
同証人は新期断層の存在を実体鏡解析によるリニアメントの判読及び露頭調査によつて行つている。リニアメントの判読は専門家の間でも個人差のあるものだといわれている。そして、リニアメントが直ちに断層を意味するのではなく、これが断層であるか否かは地表調査その他で確認しなければならぬとされる。小島証人は多くの地点に目安をつけたが、結局三か所しか新期断層の露頭が発見できなかつたというのである。したがつてF1ないしF7の断層が存在するとする知見の精度は極めて低いものである。
(6) なお、小島証言は、本件予定地は地質的に山麓面(瀬戸内面)の一般的傾向を示していて特殊性はないといつており、本件予定地が地質的に不適地とすれば、控訴人は他に適地を求めることは不可能ということになる。
(二) 本件予定地における土石流について
本件予定地における谷の状況は、溪床勾配については、谷1が上流部で約一一パーセント(約六度二〇分)、下流部で約五パーセント(約二度五〇分)、谷2が約九パーセント(約五度一〇分)、谷3が上流部で約一四パーセント(約八度)、下流部で約八パーセント(約四度三〇分)といずれも緩やかであり、溪床堆積物についても谷3を除いてほとんどないと推定されるのであつて、土石流(土砂流)発生の可能性は極めて低いというべきである。
被控訴人らは、本件予定地におけるごみ埋立処理施設建設のための森林伐採が土石流(土砂流)発生の原因になると主張している。しかしながら、控訴人は、本件予定地六五万平方メートルのうち、三四万平方メートルのみの森林を伐採するものであり、また、伐採後、同地をそのまま放置しておくわけではなく、そこに本件施設を建設し、後述のとおり地盤の安定化対策も施すのである。したがつて、森林伐採後、そこに建設される本件施設が土石流(土砂流)防止の機能を果たすことがあつても、施設が自然崩壊して土石流(土砂流)発生の「引き金」等になることは全く考えられない。
(三) 本件予定地周辺の大気汚染について
被控訴人らは、本件予定地に本件施設が建設された場合、ガスが発生して大気汚染が生ずると主張する。ごみ埋立処理施設からのガス発生は、主に生ごみから生ずるものであるが、控訴人としては本件予定地には生ごみを埋め立てないこととしているのであるから、ガス発生の可能性は生ごみ埋立の場合に比して格段に低く、また、仮にガスが発生するとしても、そのガスは、質的に問題の少ないものであるから、本件予定地に逆転層が存在するものとしても、そのことによつて、大気汚染が生ずることは到底考えられない。
(四) 本件予定地周辺の環境破壊について
被控訴人らは、本件予定地に本件施設が建設された場合には、ごみ搬入車両による交通問題が発生すると主張している。しかしながら、戸山地区の県道を利用する搬入車両は、一時間当たり一〇台前後にすぎないのである。そして、右県道の昼間一二時間当たりの通行車両は、昭和五五年度交通量調査によれば、一二一五台(一時間当たり約一〇〇台)であり、したがつて、右程度の交通量増加によつて被控訴人らの生活環境が破壊されたり、子供の通学に危険を及ぼすなどおよそ考えられないところである。
7本件施設建設に伴う環境保全対策について
控訴人は、本件施設の建設に伴う周辺環境の保全のため、昭和五七年八月本件要綱を策定した。その基本理念とするところは、本件施設建設に伴う各種環境影響を、単に規制基準遵守の域にとどめず、環境基準を満足させようとするものである。右要綱は、現有する文献、資料及び広島市における既設の埋立地並びに他都市の実例等に基づき、専門的な知見と技術的な検討を加えて作成したものであるが、控訴人は、第二次環境調査の実施によつて詳細な検討を更に行い、より精度の高い環境保全対策を講ずる予定である。控訴人が実施する環境保全対策は以下に述べるとおりである(なお、第一地図参照)。
(一) 汚濁浸出水による被害の防止対策について
本件施設よりの浸出水が公共水域及び地下水を汚濁する可能性のあるルートとしては、埋立地底より地下浸透して外部の地下水に混入するルート、埋立廃棄物層を支持する未端擁壁より浸出して表流水に混入するルート、浸出水を処理施設で処理した後の放流水が河川水質を維持するうえで許容される以上の汚濁負荷量を河川に持ち込むルートの三つがある。そこで、控訴人は、これらのルートに対応して、浸出水の良質化対策、雨水・地下水の流入防止対策(浸出水の減量化対策)、浸出水の埋立地内滞留防止対策、浸出水の地表流出防止対策、浸出水の処理(放流先河川の汚濁防止対策)の各対策を講ずることとしている。
(1) 浸出水の良質化対策
これは、発生する浸出水汚濁負荷量自体を低減させるという根源的対策であり、この対策として、
重金属溶出の可能性を有する各種焼却灰、燃えがらは、条件の良い特定場所に区画埋立し、その浸出水は、一般区とは別系統で導水することにより、重金属溶出を監視し、適切な処理を行うこととし、特に重金属溶出性の高いとされる電気集じん灰等は、固型化処理し、不溶性とした後埋め立てる、また、右以外の廃棄物については、重金属溶出のおそれのない種類に限定して搬入させ、埋め立てる(なお、控訴人においては、以前から蛍光管、乾電池など問題となる重金属を含む廃棄物は、有害ごみとして別途処理し、埋め立てていない。)、
可燃性廃棄物は、焼却処理のうえ埋め立てることとしているが、不燃性廃棄物の中に分解性のごみが混入する可能性を考慮し、廃棄物の早期安定化が可能となる準好気性埋立構造を採用する。
埋立廃棄物の安定化を促進し、かつ、安定化の進んだ廃棄物層の浄化能力を生かした埋立造成順序を工夫し、また、埋立層は均等に敷ならして適当に締固め、安定した水質が得られるように工夫する、
等の措置をとることとしておりこれらの措置をとることにより、廃棄物から生ずる浸出水自体の汚濁負荷量が著しく低下することになる。
(2) 雨水・地下水の流入防止対策
廃棄物層への水の供給を極力遮断すれば、浸出水の発生量を低減させることができる。控訴人は、このための対策として、
埋め立てる谷の残流域から流入する沢水については、埋立地上流端付近の適地を選定し、堰堤を築造して埋立地への流入を防止するとともに、埋立地底に排水管を布設し、これにより雨水調整池まで導水し、埋立地下流へ排水する、
埋立地周辺の山腹からの流入水については、表面流と中間流を周回道路切土により切断し、道路に並設する雨水排水溝により雨水調整池に排水する、
埋立地における埋立完了区画については、最終覆土を行い、排水溝を設置して雨水を排水し、未埋立区画については、排水管により排水する、
等の措置をとることとしている。
(3) 浸出水の埋立地内滞留防止対策
埋立地内における浸出水の滞留を防止し、早期にこれを排除すれば、埋立地底から基盤への浸出水の浸透の可能性を減少させることができる。控訴人は、このための対策として、埋立地底に集排水管を適当な密度で布設しこれにより浸出水調整池まで導水することとしている。
(4) 浸出水の地下拡散防止対策
前記(1)ないし(3)の各対策を講ずることにより埋立地における浸出水の汚濁負荷量、浸出水発生量、浸出水の基盤への浸透可能性等をいずれも著しく減少させることができるが、控訴人は、更に浸出水の地下拡散を防止するため、次のような対策をとることとしている。
まず、その対策の第一は、埋立地末端擁壁を遮水性を有するコンクリート構造とし(二次堆積物下底の岩盤を支持基盤とする。)、更にその下部にカーテングラウト等による遮水帯を設ける。これにより、埋立地下底の地下水が埋立地外へ流出することが防止される。
対策の第二は、埋立地底部について第二次環境調査による地質状態の把握を踏まえ、最終的には埋立地底全面にアスファルト舗装系、シート布設系、吹付け系、土質(改良)系等による表面遮水工を施す。
なお、本件予定地の地盤条件が極めて悪い場合には、控訴人としては、第二次環境調査の結果を踏まえて浸出水の地下拡散防止対策の具体的工法を決定する際に、マサ土にポルトランド・セメントを混合して締め固めるソイル・セメント工法をも検討対象とすることとしている(詳細は後述)。
以上のとおり、右第一の対策により、埋立地下底の地下水は、埋立地外の地下水と遮断され、さらに、右第二の対策により、廃棄物からの浸出水と地下水(裂か地下水はもとより、浅層地下水とも)とが遮断されるのであり、仮に、小島証言及び報告書に示されたごとく本件予定地の不透水層が浅く、かつ、また岩盤が破砕されているとしても、浸出水による地下水汚染の可能性は全くないというべきである。
(5) 浸出水の地表流出防止対策
埋立地から浸出水が地表流出することを防止するため、控訴人は、末端擁壁を遮水性を有するコンクリート構造とすることとしている。
(6) 浸出水の処理(放流先河川の汚濁防止対策)
(イ) 放流水の水質
埋立地から排出される浸出水は、集排水管により浸出水調整池に集められ、汚水処理施設で処理された後、河川に放流される。放流水の水質については、法律的には「一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める命令(昭和五二年総理府令・厚生省令第一号)」により、「排水基準を定める総理府令(昭和四六年総理府令第三五号)」に適合させれば足りることとなつている。しかしながら、控訴人としては、放流先河川(吉山川)の利水現況を考慮し、放流先河川の水質が環境基準、農業用水基準、水産環境水質基準のすべてを満足するように水質項目ごとに、右各基準のうち最も厳しい数値を採用し、これを維持し得るように埋立地からの放流水質を決定することとしている。
(ロ) 許容放流水質維持の技術的可能性
浸出水の処理は、原水槽→生物学的硝化脱窒→高速散水床→凝集沈澱→砂過→高次処理→滅菌という過程で行われるが、近年他都市で建設された汚水処理施設の計画処理水質との比較からみても、本件予定地からの前記許容放流水質維持が可能であることは明らかである。
(ハ) 放流先河川の選定
前記(イ)、(ロ)で述べたとおり、本件予定地からの放流水は吉山川の利水現況を何ら阻害するものではないが、さらに控訴人は、今後の調査成果いかんによっては、本件予定地からの浸出水の処理水を吉山川に放流せず、許容負荷量の大きい太田川まで管路送水し、放流することを検討している。これにより、本件予定地からの放流水によつて被控訴人らに被害の発生する可能性は全くなくなることとなる。
(7) 上水道の布設
前記(1)ないし(6)の諸対策により、被控訴人らが主張するような浸出水による被害が発生することなどありえないことであるが、特に、生活の基礎である飲料水については、控訴人は、被控訴人らの心情的な危惧をも払拭するために、万全の措置として、本件施設建設に並行して、総額約一〇億円の事業費を投じて、右施設へのごみ搬入開始時までに、戸山地区に上水道を布設する計画である。これにより、被控訴人らは、本件施設へのごみ搬入開始時には、上水道を利用することができることとなる。したがつて、飲料水の水質汚濁により、生命、身体に影響を被るという被控訴人らの懸念は、完全に解消されるものである。
(二) 廃棄物・粉じんの飛散防止対策
控訴人は、廃棄物・粉じんの飛散防止のため、搬入時には搬入車両をシートで覆い、埋立作業過程においては飛散防止用の囲いを設置し、埋立後は速やかに覆土し、適宜散水することとしている。
(三) ガス・臭気対策
廃棄物からのガスは、廃棄物中の有機物が土壌微生物によつて分解される過程で生じる。有機物の分解速度は、埋立雰囲気によつて大幅に異なり、好気性菌による分解では炭酸ガス・水などが発生し、質的に問題が少ないのに対し、嫌気性菌の活動によつて発生するガスは、可燃性のメタンのほか、硫化水素などの悪臭成分を含み質的にやや問題である。
本件施設では、前述のとおり可燃性廃棄物は焼却後に埋め立てるもので、埋立廃棄物中に有機物は原則として含まれておらず、ガス・臭気発生の問題は原則的には存しない。もつとも、不燃性廃棄物中に有機物が混入する可能性を全面的に否定することはできないため、控訴人としては、混入した有機物の分解が好気性雰囲気で行われるよう、準好気性埋立工法を採用することとしている。この工法採用により、本件施設におけるガス・臭気発生の問題はほとんど考えられないことになる。さらに、控訴人は、万全を期すため、埋立後は速やかに覆土するとともに、必要箇所にガス抜き孔を設け、必要に応じて消臭剤を散布することとしている。以上の対策により、ガス・臭気の問題は完全に防止されることになる。
(四) 防災対策
(1) 埋立処理施設の保全
埋立処理施設の保全としては、埋立地周辺からの土石流等に防止することが中心となる。控訴人は、その対策として必要箇所に砂防堰堤を設置することとしており、更に廃棄物埋立地自体の安定化対策も施すのである。ルース台風という未曽有の災害時に発生した土石流さえ小規模な擁壁で防禦し得るのであるから、控訴人の施す防災対策によつて土石流(泥流を含む)を防止できないはずは全くない。なお、控訴人としては、第二次環境調査の結果を踏まえて埋立処理施設保全対策の具体化をはかる際に、土石流発生の引き金となる斜面崩壊の危険箇所についての対策も検討することとしている。
(2) 埋立地盤の安定
控訴人は、埋立廃棄物の埋立地外への流出を防止するため、埋立廃棄物の安定化を促進させる集排水管路等を設け、すべり抵抗を増大させる地中壁を設置し、埋立地の土圧を支持する埋立地末端擁壁を築造することとしている。
(3) 洪水対策
控訴人は、本件施設建設に伴う下流河川の洪水を防止するため、雨水調整池及び沈砂池を設置することとしている。
(五) 搬入・埋立の管理
(1) 搬入の管理
控訴人は、搬入廃棄物の種類及び搬入基準を定めて埋立対象物を規制し、搬入者に対しては搬入物の種類、発生場所、排出者名簿を届け出させ、搬入物の確認、分析検査等を行い、環境汚染物質の排除並びに搬入者の指導の強化等搬入管理システムの確立を図ることとしている。
(2) 埋立の管理
控訴人は、環境汚染物質の拡散を防止するため、廃棄物の性質に応じて埋立区画を設ける区割管理埋立方式を採用し、各埋立区からの浸出水は、埋立区画ごとに独立した浸出水集排水管路により、汚水処理施設へ集水し処理することとしている。
(六) 交通対策
本件施設への廃棄物搬入に利用される県道久地・廿日市線は、平均幅員約6.5メートルで、搬入車両の増加によつても車両及び歩行者の通行にはいささかの支障もないが、その一部約一三〇メートルの区間の幅員は現在約四メートルである。そこで、控訴人は、右県道(控訴人の管理下にある)の交通安全対策として、廃棄物の搬入開始時までには、右約一三〇メートル区間の幅員を七メートルに拡幅し、右区間を含めた郷坂部落から本件施設への進入道路との交点までの約3.6キロメートルの区間にわたり、必要な個所に、幅員1.5メートルの歩道を設置することとしている。また、控訴人は、必要な個所には、広島県公安委員会と協議のうえ、信号機を設置する計画である。
(七) 地盤条件が極めて悪い場合の埋立工法について
本件予定地の地盤が、小島証言及び報告書に述べられているように、断層破砕帯が存在するなど極めて悪い条件であり、簡単には浸透水対策が立てられないような状況にある場合には、格別の埋立工法を考えているので、この点について述べる(広島大学教授網干壽夫作成「広島市北部埋立地調査に関する土質工学的見解」(乙第七四号証。以下「網干見解」という。)参照)。
右工法は、本件予定地内の各谷を区切る山稜が、破砕された岩であつたり、厚い風化層であつたりすることに着目し、これを取り除くことによつて、埋立容量を大きくするとともに、地下水の汚染防止対策を容易に講じることができるようにすることを目的とするものである。なお、山稜を取り除くとき破砕した岩塊は、谷の出口を締め切るロック・フィル・ダムのために使用される。工事の手順としては、
外周の山稜の斜面に沿つて、ループ状に幅七メートルの工事用道路(この道路は、埋立完成後も道路として残される。)を建設する。
右道路に沿つて、幅約三メートル、深さ二メートルの水路をつくり、外周道路の外の集水域から流入する雨水をすべてこの水路に流すことにする。この水路は、この地域の三〇年確率降雨強度に十分対応できるものである。
右水路の末端低地で、右道路の内側に二七、〇〇〇立方メートル容量の雨水調整池を設置し、洪水時の調整池とする。
本件予定地内の旧河川敷に、浸透水の排除のために立上り管をもつた暗渠を設置する。これにより、工事中及び工事完了後の排水機能を確保する。
本件予定地内の谷間を、大規模土工によつて掘削し、ローラで締め固め、平坦なグランド状に整地する。
埋立容量を大きくするために、掘削土砂を、覆土用の土砂を除いて、場外に搬出する。この場合、埋立可能なごみの量は四〇〇立方メートルとなる。
なお、このような土砂搬出が不可能であれば、全量を右道路内で平均に敷きならす。この場合、埋立可能なごみの量は二一〇万立方メートルとなる。
右整地後、本件予定地下底に遮水工法を施す。ここでは、永久的な耐久性があり、また、その透水性もほとんど考慮する必要がないほど小さい、マサ土にポルトランド・セメントを混合して締め固める、ソイル・セメント工法を採用する。
右遮水工法の施行後に部分的に残される可能性のある固い岩の斜面や、周辺にできる掘削斜面には、セメント吹付け工法を用いて遮水する。
これら不透水のライニング上には、あらかじめ排水管を多数設置して浸透水を集水し、これを右雨水調整池に隣接して設ける浸透水調整池に導き、汚水処理施設で処理し、放流する。
右工法については、事業費の試算の結果、経済性においても満足し得るものであるとされており、これによつて、小島報告書に想定されているように、極めて岩盤の状態が悪く、簡単には浸透水対策がたてられないような場合であつても、環境に悪影響を与えずに、本件予定地に本件施設を建設することができるのである。
8既存埋立地(瀬野川埋立地)について
控訴人が設置した本格的なごみ埋立処理施設には、戸坂、三滝、瀬野川の三埋立地があるが、戸坂、三滝の両埋立地は主として生ごみを埋め立てたのに対し、瀬野川埋立地は土砂、瓦礫、建設廃材、焼却残渣等の不燃性廃棄物及び廃プラスチック類等の焼却不適ごみを現に埋立中である。本件施設において埋め立てる廃棄物は、右の瀬野川埋立地と同様とする計画であるので、本件施設建設に伴う環境への影響の有無について瀬野川埋立地の実情と対比することによつて容易に推測できる。
控訴人が水質検査したところによると、瀬野川埋立地においては、常に前記総理府令所定の排水基準を下回り、放流水による瀬野川への影響も、また浸出水による地下水への影響も全く現われていない。被控訴人らは広島大学公害研究グループの水質調査結果を援用するところ、高い数値を示すのは埋立地直下のボーリング井戸でなく遠方のものであるし、埋立地周辺の民家の井戸には影響がないとされるのであるから、右数値の原因をなすものは瀬野川埋立地の浸出水と関係がない。
また、同埋立地において一時検出されたメタン、硫化水素、メチルカプタンなども埋立後七年目以降はほとんど検出すらされえないほど微量なものとなつている。
9戸山地区の地域性(特に吉山川)について
吉山川の水質についていえば、同川は、昭和五〇年六月に環境基準A類型として指定されたが、同川が環境基準AA類型に適合した事実はない。昭和五一年度以降の水質検査の結果によれば、生物化学的酸素要求量(BOD)についてはAA類型の基準値を上回つたことがあり、大腸菌群数に至つては常にA類型の基準値すら上回り、A類型にさえ適合していない。被控訴人らは、右のような吉山川の水質(B類型)を前提として生活してきたのであり、同川の水質がAA類型でなければその生活が維持できなくなることなど全くありえないというべきである。
10本件施設の公共性について
現代社会においては、必然的に毎日多量の廃棄物を生み出し、これを放置すれば生活環境上、また公衆衛生上重大な問題が生ずることになる。本件施設は被控訴人らを含めた全市民の生活環境・健康を維持すべきであつて(被控訴人らの廃棄物はここで処理される予定である)公共性を有するから、被控訴人らとしては高度の受忍義務を負うものであることは明らかである。そして、廃棄物埋立地として少なくとも二つを確保しておかなければ、到底継続的、安定的な廃棄物処理をすることはできない。現在稼働しているのは瀬野川埋立地一か所であり、しかもその埋立期限もぎりぎり昭和六二年度までであり、現在計画中の筒瀬埋立地が右年度に間に合つても、更に新規のごみ埋立処理施設の建設を急がなければ同埋立地の後継施設がないのである。筒瀬埋立地の計画が進行中であるからといつて、本件施設の必要性がなくなるわけではない。以上のとおり、本件施設の公共性・必要性・緊急性は明白であり、十全の環境保全対策をとる右施設の建設が、被控訴人らの受忍限度の範囲内にあることは明らかである。
11第二次環境調査について
控訴人が、本件施設を建設するに当たり、事前に第二次環境調査を行うべく、地元説明会の開催、さらには、第二次環境調査を実施しようとしたが、いずれも、被控訴人らの実力阻止にあつて実施することができなかつたことは、前述のとおりであるが、控訴人は、第二次環境調査の結果に基づいて右建設計画の具体的内容を決定することとしている(そして、調査結果いかんによつては建設を中止することもある。)。
被控訴人らは、右の第二次環境調査を環境影響評価ではないと主張している。しかしながら、環境影響評価は、事業実施に当たり、事前に環境への影響を調査し、その調査結果を当該事業計画に反映させる手法であり、控訴人の予定する第二次環境調査は十分これに適合するものである。被控訴人らの主張は、独自の環境影響評価概念を設定し、それ以外は環境影響評価として認めないというものであつて失当である。なお、控訴人は、本件施設の建設につき戸山地区住民との話合いを行うべく十分な努力を払つてきており、今後とも地元の方々の理解と協力を得るべく努力するつもりである。
第三 疎明関係《省略》
理由
一 申請人適格について
控訴人が戸山地区のほぼ中央に位置する広島市安佐南区沼田町戸山大学阿戸の原判決添付別紙第一図面中一点鎖線(―・―・―線)で囲まれた部分の土地(本件予定地)に本件施設を建設する計画であること、被控訴人らのうち、別紙「控訴人主張に係る戸山地区外住民一覧表」記載の者を除くその余の被控訴人らが、いずれも戸山地区の住民であることは当事者間に争いがない。
ところで、控訴人は、右一覧表記載の者は戸山地区外の同表備考欄記載の住所に居住するから、本件施設建設等によつて被害を受ける蓋然性はなく、また、戸山地区に住む者のうち、本件施設より上流に居住する者及び吉山川の右岸に居住する者は被害を受ける蓋然性がほとんどないから、いずれも申請人適格を欠くと主張する。而して、本件記録によれば、右一覧表記載の被控訴人らは別紙当事者目録記載の当該肩書地を住所とすることが認められるところ、これによると被控訴人神谷啓子、同脇田勝彦、同福永正行は戸山地区に居住しているが、その余の右一覧表記載の者は戸山地区に居住しているが、その余の右一覧表記載の者は戸山地区外に居住していることが推認される。
しかしながら、給付訴訟においては、訴訟物たる給付請求権をもつと主張する者が原告(申請人)適格を有することになるから、本件のような不作為の給付請求である差止訴訟についても、申請人は、被申請人の行為によつて自己の権利を侵害されるおそれがあると主張しさえすれば申請人適格は認められる。控訴人のいう被害のおそれの有無、程度は申請人適格の問題ではなく、まさに被保全権利の問題である。そうすると、控訴人主張に係る右一部被控訴人らも本件訴訟の申請人適格を有すものといわなければならない。したがつて、控訴人の右主張は失当であつて、採用できない。
二 本件施設の概要について
控訴人が、前記のとおり本件予定地に本件施設を建設することを計画し、昭和五〇年七月原判決添付別紙(二)「北部埋立地基本計画書」を、昭和五一年一〇月原判決添付別紙(三)「北部埋立地修正計画書」をそれぞれ策定・公表したこと、その後昭和五七年八月控訴人は、右修正計画書をさらに補足修正して本件要綱を策定したことは当事者間に争いがない。
控訴人が本件施設の建設を企図している本件予定地の埋立及び搬入計画の概要は本件要綱第一に記載され、次のとおりとされる。
原判決添付別紙第一図面の一点鎖線で囲まれた範囲(埋立地総面積約六五万平方メォトル)を本件施設建設の予定地とし、そのうち別紙第一地図(本件要綱の図1を拡大したもの)の淡縁色で囲まれた部分(計画開発面積約三四万平方メートル)を具体的に埋め立てあるいは関連施設を設置するものとし(この部分は、右基本計画書、修正計画書におけるそれとは僅かながら変更されている。)、その内容の概要は第一地図記載のとおりであり、更にその一部、すなわち、第一地図の朱色で囲まれた部分が具体的に埋め立てられる部分であつて、その埋立容量は約一一六万立方メートルであり、そして、埋立期間約一〇か年、埋立日量は開始時点で一日当たり約一三〇トン、終了時点で一日当たり約二〇〇トンの予定である。また、搬入時間は原則として午前八時半から午後四時までの間、搬入経路は県道安佐・安古市線を経由して、県道久地・廿日市線から埋立地へ進入し、退出することとし、その車両台数は搬入開始時に一日当たり約七〇台、搬入終了時に一日当たり約一〇〇台の予定であること、そして、搬入物は、土砂、瓦礫、ガラス、陶器類、建設廃材、焼却不適ごみ、大型粗大ごみ、ゴム・プラスチック屑類、焼却残渣等である。なお、埋立工法、環境保全対策等は、本件要綱第二、第三のとおりであるが、その詳細は後述する。
三 戸山地区の現在の環境について
戸山地区の概要、吉山川の水質、戸山地区の大気・気候、本件予定地付近の地質、戸山地区小・中学校への通学路についての認定判断は次に付加、訂正、削除するほかは、原判決三六枚目表七行目から四〇枚目表四行目までと同一であるから、これを引用する。
1原判決三六枚目表一三行目「北方」を「北西方」と改め、同三七枚目表三行目「指定されているが」を「指定されており、」と改め、同行目「実際には」から同七行目「用した。)」までを削除し、同三七枚目裏二行目「この生活用水」から同四行目「ものであつて」までを削除し、同八行目と九行目の間に「被控訴人らは吉山川の水質は実際にはより良好なAA類型に属していると主張するが、<証拠>によれば、控訴人が「水質汚濁に係る環境基準について(昭和四六年環境庁告示第五九号等)」に則つて行つた昭和五〇年二月の吉山川中流・支流の四か所(戸山大橋、郷坂橋、中央川出合、天王原川戸山橋)での水質測定の結果によると、戸山大橋で所定の水質項目のうち、生物化学的酸素要求量(BOD)がAA類型の基準値(一PPM以下)を上回る1.3PPMを示したこと、その余の三か所では所定の水質項目についてAA類型の基準値内であつたものの、翌昭和五一年度から昭和五七年度までの戸山公民館前での水質測定(年間に隔月六回測定。)によると、生物化学的酸素要求量についてAA類型の基準値を上回つたことがあり(年間六回中二ないし三回)、大腸菌群数では合計四二回全部の測定においてAA類型の基準値を上回り、そのうち三七回までがA類型の基準値すら上回つていることが疎明され、これを左右するに足る疎明資料はなく、右事実からすると、吉山川の現在の水質がAA類型を達成しているとは認め難いものといわなければならない。」を加える。
2原判決三八枚目表一二行目の次に左の項目を加える。
「(五) 右(一)ないし(四)項(原判決の理由の項目。なお、以下特記しない場合は本判決理由の項目)に掲示した証拠のほか、当審における被控訴人竹原清泉本人尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すると、沼田町には山陽自動車道、中国横断自動車道、県道草津、沼田線の建設が進行中であり、殊に伴地区は旧広島市との間の交通網が発達し近年とみに宅地造成開発もあり、戸山地区もその余波を受けて漸次、停滞的農村の雰囲気に影響が出始めているといえなくはないが、しかし、前示のごとく山林に囲まれ、田園の広がる静ひつな農村地帯で、住民は自然の恩恵を楽しんでおり、吉山川が環境庁告示の基準A類型にとどまるにしても、やはり、戸山地区は山紫水明ともいえる環境であることが疎明される。」
3原判決三八枚目表一三行目冒頭の「(五)」を「(六)」と改め、同一四行目から三九枚目裏一二行目までを次のとおり改める。
「<証拠>を総合すると、次の事実が疎明される。
広島県一帯は北の高い中国山地、南の低い沿岸地方、その中間の広い意味の山麓面(小島証人の用法に従う。同証人はまた瀬戸内面ともいつている。なお、高橋、浦田報告書では「吉備高原面」と称している。)があるところ、本件予定地は山麓面に存在する。
本件予定地の範囲は二項記載のとおりであるが、その付近の地形は西方に高く東方に向けて低くなつている。稜線ないし山脚線に沿う高度分布をみると、海抜三〇〇メートル位を境に、西方では傾斜が急で、東方では、緩く波状に、三〇〇ないし二七〇メートル位の高度で上下している。
本件予定地には第一、第二地図で判るように、谷1、谷2、谷3が存在する。仮にこの谷を全部埋めた地形(切峯面)を想定すると、海抜三〇〇メートル位以下に緩傾斜面があらわれ、この面を山麓面(狭い意味)というが、右の各谷は山麓面が五〇ないし六〇メートル浸食下刻されたもので、本件予定地付近の地形は開析山麓面といわれる。
本件予定地は、西方の山頂付近が熱変成岩でできており、溪床部等には土石流堆積層があるが、これを除けばすべて花山岡岩で占められている。その大部分が中生成白亜紀後期に生じた広島花嵩岩体に属する粗粒黒雲母花崗岩で、その中に細粒花崗岩の脈状小岩体が散在する。
花崗岩は風化の程度により、マサ(これにも風化の進んだものとそうでないものがある)、軟岩、硬岩などに分けられる。硬岩自体は不透水性であるが、裂け目があると水の流路となる。概していえば、本件予定地西方の急傾面では硬岩があらわれ、溪床部に堆積層(マサ)がある(しかし、本件予定地の風化殼の厚みについては争いがあるので後述する。)。
本件予定地付近には古期破砕帯、新期断層と呼ばれる二種類の断層破砕帯が存在すると考えられる。これらが存在すると、そこが裂か地下水の水路となり、したがつて汚水の流路となる(しかし、本件予定地にいかなる程度の破砕帯、断層が存在するか、それがいかなる程度において汚水の流路としての役目を果たし、本件施設から戸山地区へ汚水を浸出させるかについては争いがあるので後述する。)。」
4原判決三九枚目裏一三行目冒頭の「(六)」を「(七)」と改める。
四 ごみに含まれる有害物質とその人体に与える影響について
右の点についての認定判断は、原判決四〇枚目表五行目から一三行目までと同一であるから、これを引用する。
五 先行埋立地における被害状況について
1この点についての総論部分及び本件予定地との面積等の対比についての認定判断は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決四〇枚目裏二行目から四一枚目表九行目までと同一であるから、これを引用する。
(一) 原判決四〇枚目裏一四行目「従つて」から同四一枚目表五行目末尾までを「したがつて、「産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法(昭和四八年環境庁告示第一三号)」に定める検定方法による検出値だけでは十分でない場合があり、仮に重金属の溶出は微量であつても、いわゆる食物連鎖によつて人体に悪影響を及ぼす可能性があり、いつたん汚染された土壌は回復するのが困難であることが疎明される。」と改める。
(二) 原判決四一枚目表九行目未尾に「ただし、成立に争いのない乙第六二号証によると、瀬野川埋立地の埋立容量は二五〇万立方メートルであることが疎明される。」を加える。
2先行埋立地三地区における水質汚濁、大気汚染及び環境破壊についての認定判断は、次に付加、訂正するほか、原判決四一枚目表一二行目から四六枚目表九行目までと同一であるから、これを引用する。
(一) 原判決四一枚目表一二行目の冒頭に「前掲乙第六一号証」を、同裏一三行目「れる」の次に「甲第一九八、第二一一号証、乙第五九号証」をそれぞれ加える。
(二) 原判決四三枚目表四行目から同四四枚目表三行目まで(瀬野川埋立地の項)を次のように改める。
「 控訴人は昭和四九年八月以降昭和五三年一二月まで瀬野川埋立地からの原水(処理前の汚水)及び処理水を「排水基準を定める総理府令(昭和四六年総理府令第三五号)」に基づき、環境庁長官の定める方法により検定した。それによると、原水について、昭和四九年八月から昭和五一年五月までの間の一八回(前記総理府令表第一の有害物質及び同別表第二の項目のうちノルマルヘキサン抽出物質含有量等の九項目(特殊項目)につき七回、同別表第二の項目のうち水素イオン濃度等の五項目(一般項目)につき一八回)、さらに昭和五二年度(検定回数は不詳)、次いで昭和五三年四月から同年一二月までの間の一二回(有害物質及び特殊項目につき五回、一般項目につき一二回)の検定において、有害物質の検出値はいずれも基準(許容限度)をはるかに下回り、一般項目の検出値は大腸菌群数が基準を超えたことが二度あるが、その他はすべての検定時において全項目につき基準以下であつた。次に、処理水については、昭和五一年六月から同年九月までの間の五回(有害物質及び特殊項目につき二回、一般項目につき五回)、昭和五二年度(検定回数は不詳)、次いで昭和五三年四月から同年一二月までの間の一二回(有害物質及び特殊項目につき五回、一般項目につき一二回)の検定のうち、化学的酸素要求量が基準を超えたことが一度あるのみで、他はすべての検定時において全項目につき基準以下であつた。なお、控訴人が処理水の放流先である瀬野川について埋立地上流部と下流部を昭和五二年度と昭和五三年度に検定した検出値には、右物質、項目とも両者に有意の差はなかつた。
広島大学公害研究グループ(代表同大学助教授城雄二)が、昭和五一年から昭和五二年にかけ、控訴人が掘削した水質検査のためのボーリング井戸一〇か所の水質検査を行つた。埋立地と瀬野川の間にあるナンバー1(瀬野川に近い位置)とナンバー2(埋立地直下の位置)を主対象にこれを八回検査しているが、これと対照するためナンバー3からナンバー10までも検査されている。その結果を「水質基準に関する省令(昭和四一年厚生省令第一一号)」に定める基準と対比すると、ナンバー1においては、マンガンがうち七回(しかも、ほとんどが基準の一〇倍以上)、鉄が四回、鉛と六価クロムがそれぞれ一回基準以上であつたが、他の事項は常に基準以下であつた。ナンバー2においては、鉄とマンガンがそれぞれ三回、鉛、六価クロムがそれぞれ二回、亜鉛が一回基準以上であつたが、他の事項は常に基準以下であつた。対照とされたボーリング井戸では、ナンバー4で六価クロム、ナンバー5で鉄、ナンバー7で鉄、ナンバー8でマンガン、ナンバー9、10で鉄が基準以上であつたことがあるが、他の事項はすべて基準以下であつた。ナンバー3とナンバー6は全事項につき常に基準以下であつた(以上の検査においては、原水のままの場合とろ過した場合がある。)。公害研の推定によると、標高において低い方からいうとナンバー1、2、3、9、4、5、6、8、7、10という順であり、そのうちナンバー1、2は埋立地地底より低く、ナンバー3、9、4、5、6は埋立地と同程度、ナンバー8が埋立地最上部に近く、ナンバー7、10は最上部より更に高いということである。右水質検査の結果によると、ナンバー1とナンバー2は、殊に鉄とマンガンにおいて他より相当高い数値となつていて、埋立地よりの汚水浸出があることが疎明される。同時に、埋立地最上部より標高の高いナンバー7、8で鉄、同程度の高さであるナンバー8でマンガンが基準以上になつたことがあるのであるから、これら汚染の原因が埋立地の廃棄物のみでないこともうかがわせる。
公害研がそのころ埋立地付近で民家七件の井戸水の水質検査をしたところ、その結果はいずれも右厚生省令の基準をはるかに下回つていた。
公害研の代表である城雄二が昭和五六年一一月、昭和五七年二月、同年九月に、前記の最も高い数値を示したナンバー1につきマンガンを測定したところ、依然として右厚生省令(ただし、昭和五三年厚生省令第五六号)の基準を大幅に上回る3.1PPM、5.0PPM、3.4PPMという高い数値を示した(もつとも、右はボーリング井戸より汲み上げられた原水とみえる。)。また、昭和五〇年一〇月三日付の新聞の報ずるところによると、右城雄二らが同年九月瀬野川埋立地付近から採取した汚泥から、前記総理府令の許容限度の二八〇倍に当たるカドミウムが検出されたということである。しかし、この点は、汚泥採取者による追跡調査の結果の発表もないし、採取地点の付近には当時工場から鋳物砂の廃棄もあつたということであるし、さらに、その後に行われた前記公害研による水質検査の結果においても、ボーリング井戸からカドミウムは検出することができぬかもしくは微量しか検出されなかつたということであるから、一時的現象であつた可能性が強い。
前記総理府の排水基準は、汚染施設から公共用水域に排出される水の排出を規制する目的の基準であるから、これが基準以下であつたからといつて汚染がないということではない。しかし、埋立地付近の民家七件の井戸水は、水道により供給される水の規制を目的とする前記厚生省令の基準をはるかに下回つているのであるから、ボーリング井戸の水からは鉄とマンガンにつき高い数値が出たとの報告もあるけれども、現在あらわれている資料のもとでは、瀬野川埋立地よりの浸出水による汚染は、それ程高度のものとはいえぬということになる。」
(三) 原判決四五枚目裏七行目「あるものである。」の次に「そして、同埋立地の大気について、同埋立地中央部で昭和五〇年六月九日から同月一一日までの間、瀬野川支所前で同月一二日、一三日に控訴人が行つた測定結果によれば、右中央部では光化学オキシダントが「大気の汚染に係る環境基準について(昭和四八年環境庁告示第二五号)」に定める基準を平均値でわずかに上回る0.061PPM(九日午後三時から一〇日午後三時まで)及び0.062PPM(一〇日午後三時から一一日午後三時まで)を示し、浮遊粒子状物質が基準を上回る一時間値の一日平均が0.552を、一時間値が最高値0.651、最低値0.503を示したが、二酸化硫黄、一酸化炭素、二酸化窒素の各測定値はいずれも所定基準(二酸化窒素のそれは「二酸化窒素に係る環境基準について(昭和五三年環境庁告示第三八号)」によるもの)をはるかに下回るものであり、また瀬野川支所では、光化学オキシダントの測定値が一二日の午後三時から午後八時、一三日の午前九時から午後三時まで基準を上回つたものの、その余の時間は基準以下であり、二酸化硫黄等その他の物質の測定値はいずれも基準以下であつた。」を加える。
(四) 原判決四五枚目裏九行目の次に左の項目を加える。
「エ 戸坂中学校において昭和四九年一〇月から昭和五〇年七月まで一〇回にわたり、三滝埋立地、瀬野川埋立地、広島市中区本川小学校、同中区竹屋小学校、同南区字品東小学校においては昭和四九年又は昭和五〇年の二日間にわたり、前記環境庁告示所定の物質などにつき大気測定がなされた。瀬野川埋立地における測定値は右(三)項のとおりであり、戸坂中学校においては、四物質が一時間の最大値においてある時は基準を超えある時は基準以下であつたが、平均値は常に基準以下であり、三滝埋立地においては、全物質につき最大値、平均値とも基準以下であり、しかも、市街地にある本川小学校等三校の測定値より下回つた(なお、本川小学校等三校は、字品東小学校において光化学オキシダントが基準を超えたことはあつたが、他の物質は基準以下であつた。)。」
(五) 原判決四六枚目表九行目の次に左の項目を加える。
「(4) なお、戸坂埋立地は生ごみを含むすべての一般・産業廃棄物の一括混合により埋め立てたものであり、三滝埋立地も戸坂埋立地と同様であるが、土砂、瓦礫は少なく、瀬野川埋立地は生ごみの埋め立てはなく、土砂、瓦礫、建築廃材、大型粗大ごみ、焼却残渣、廃プラスチック類を埋立中である。」
六 控訴人のごみ処理行政の現状について
右の点についての認定判断は、次に付加するほか、原判決四六枚目表一一行目から四七枚目裏九行目までと同一であるから、これを引用する。
1原判決が右の点の認定資料として掲示する証拠(同四六枚目表一一行目から同裏七行目まで)に、成立に争いのない甲第一九五、一九六号証の各一、二、乙第一七、第六二号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第六八号証、当審証人福島隆義の証言を加える。
2原判決四七枚目裏七行目「三一万三千トン」の次に「(一日当たり約一〇〇〇トン)」を加え、同九行目の末尾に「昭和五八年二月現在広島市では一日当たり約八五〇トンのごみを処理しなければならぬ事情になつており、そのうち生ごみ等の可燃ごみはすべて中清掃工場等で焼却し、その焼却残渣と不燃ごみを瀬野川埋立地一か所に埋め立てており、一日の平均埋立量は約四八〇立方メートルである。そして、同埋立地の予定埋立容量約二五〇万立方メートルと見込まれているが、右時点ですでに約一九〇万立方メートルを埋め立てているので、残埋立可能容量は約六〇万立方メートルとなり、このまま推移すると、昭和六二年ころをもつて同埋立地は満杯となる見込みである。控訴人としては、本件訴訟の進捗状況にかんがみ、瀬野川埋立地が満杯になる時期までに本件施設の使用開始ができないこともあり得るとの判断のもとに、安佐北区安佐町筒瀬地区に埋立候補地を選定し、現在地元住民との間で立地協議について基本的合意を得るに至つた。しかし、筒瀬地区にごみ処理場の建設ができることとなつたとしても、近い将来のため他にも埋立地を求める必要がある。」を加える。
七 本件予定地を選定した経緯について
右の点についての認定判断は、原判決六二枚目表三行目から六三枚目表一二行目までと同一(ただし、六二枚目表七行目の「乙第五三号証」を「甲第五三号証」に訂正。)であるから、これを引用する。
八 本件施設を建設するについての控訴人の具体的方策について
控訴人が計画している本件施設の内容、その建設方法、本件施設が環境に悪影響を及ぼすことを防止するための具体的方法については(前記二項で認定のほか)、<証拠>を総合すると、本判決の控訴人主張7項(以下、当事者主張の引用はすべて本判決の項目)のとおりであることが疎明される。
被控訴人らは、本件要綱を含め控訴人主張7項の内容は、控訴人が本件訴訟対策のために主張しているもの、あるいは単なる構想にすぎぬものと主張する。被控訴人らは先行埋立地における控訴人の対応が不誠意であつたとしてかような主張をするものと思われるが、控訴人としては、先行埋立地における経験を生かし、本件施設においては被害の発生のないように本件要綱の内容を策定したとしているものであつて、本件訴訟対策のための単なる構想にすぎぬことを認めるに足る疎明資料はないし、また、責任ある地方公共団体としてかようなことはあつてはならぬものである。そして、具体的方法といつても、本件要綱の内容がある程度抽象的であることは否めないが、控訴人としては、第二次環境調査の結果を踏まえて更に具体化するというのであり、第二次環境調査がなされていない現段階においてはやむをえないところである。
九 本件予定地の地質構造について
1被控訴人らは、本件予定地の地盤は広島花崩岩であるが、風化した不透水層が薄く、そのうえ断層破砕帯が存在し、本件施設より浸出する汚水が裂か地下水となつて戸山地区に浸透し、飲料水やその他の利用水を汚染してその損害は償いえないものと主張し、そのよりどころとして小島証言及びその報告書を挙げる。
小島第一報告書及び証言の内容は、大要、被控訴人らの主張8項の(一)の(2)並びに(二)と同じであるが、これを若干補足して説明する。
(一) 本件予定地の地盤を形成する粗粒花崗岩は、その風化の程度で、粘土質マサ(帯)、オニマサ(帯)、軟岩Ⅰ(帯)、同Ⅱ(帯)、硬岩(帯)に分けられる(呼名は便宜的なもの)。硬岩はほとんど風化されておらず、前四者を風化殼という。粘土質マサ帯、オニマサ帯は難透水性(透水係数が10-6cm/sec,すなわち、一秒間に一〇〇万分の一センチメーター程度)で、実際には不透水性とみなしてよく、軟岩帯、硬岩帯は破砕帯以外では不透水層(透水係数が右数値以下)であるが、破砕帯では破断面が水みちになつて透水する。もつとも、軟岩Ⅰでは破断面に沿い粘土が生じている。
第二地図に示すごとく、二〇か所程度の露頭調査をした結果、谷1は主に硬岩帯と軟岩Ⅱ帯、谷2は下流部は硬岩帯と軟岩Ⅱ帯、上流部はオニマサ帯、谷3は軟岩Ⅰ帯とオニマサ帯であるとし、本件予定地は風化殼が薄いという。
(二) 古期破砕帯の破砕強度はずり破断面の密度で分類され、AA級ではそれが数センチメートル間隔で存在し、A級では幅一メートル内に五本ないし一〇本の間隔で存在し、B級では幅一メートル内に一本ないし四本の間隔で存在し、C級では一メートル以上の間隔で存在するもの、D級はそれがほとんど認められないところである。本件予定地における状況は第二地図に記載されているとおりであるが、要するに、「谷1と谷2は破砕強度がA級(一部AA級)ないしB級の部分に位置する。谷3では花山岡岩基盤の露頭が少なく判定困難だが、谷の出口付近がC級、谷の奥ではD級と推定される。」ということである。
もつとも、小島証人は右報告書及び当審証言において、破砕強度の判定に使用し得る花崗岩の基盤の露頭が少なく、谷1で一か所、谷2で二か所、谷3も堆積層が厚くてこれが少なかつたといい、小島証人自身それが十分のものとはしていない。
(三) 新期断層を判定するについては、被控訴人ら主張のごとく、予め空中写真(一万分の一)の実体鏡解析によりリニアメント(線要素)を検出し、これと露頭調査によつてなされた。その結果、第二地図に示すごとく、本件予定地付近にF1ないしF7の断層が存在するとする。そして、F1断層破砕帯の幅は二五〇メートルに達し、それは広島県高田郡千代田町より同県佐伯郡佐伯町に達することで知られており、その延長は四〇キロメートルに及ぶ。
もつとも、小島証人の当審証言によると、この調査資料を得ることができた露頭は、谷1(谷2、谷3の合流点より下流を含む。)、すなわちF5断層のみで、それも三か所にとどまり、十分のものとはしていない。
(四) 小島第一報告書は、右のような風化度、断層破砕帯から次のように結論している。
「谷1と谷2の埋立によつて、岩盤裂か地下水汚染を惹起することは確実と認められる。
谷3の埋立によつて裂か地下水汚染がおこる可能性が大きい。
裂か地下水系の汚染の影響は吉山川断層破砕帯(前記F1断層のこと)に及び、この地帯の深井戸の水質汚濁を招き、更に下流部で吉山川に滲出すると考えられる。」
そしてさらに、本件予定地の本格的地質調査のためには、追加調査として切取り(トレンチ)、弾性波探査、ボーリングが必要であるが、既に地表地質調査の結果、廃棄物埋立地としては不適格という結論に達しているのであるから、これらを実施するまでもない、という
小島証人は当審証言において、右の点につき、「地質学のような経験的な学問は一〇〇パーセント確実な結果は出せない。私の地表地質調査の結果は八〇パーセントは本当と思う。そうであるなら、地表地質調査としては満足すべき結果といえよう。もとより、埋立地や道路を建設するとなると八〇パーセントの確率では設計ができないので、右のような追加調査により確率を高める必要がある。しかしそれには多額の費用がかかることであるから、本件予定地しか候補地がないのなら格別、他に候補地があるのであれば、追加調査の必要がない。」と述べる。
なお、その後提出された第二報告書(弁論の全趣旨により成立の認められる甲第二〇〇号証)において、小島証人は前記の新期断層につき、「断層破砕帯が現れている所が少なく、地域一帯における断層系の一般的傾向と空中写真についての写真地質学的読図から主に推定したので、確実度はあまり高くなく、あえて数値でいえば五〇パーセントぐらいである。ただし、F5断層系は規模の大きい新層破砕帯が確認できているので、確実度は極めて高い。」と記している。
(五) 小島証人の高橋、浦田報告書の見解(後記)に対する批判は、大要、被控訴人らの主張8項の(三)の(2)の内容と同一である。
(六) 小島証人は第二報告書において網干見解(後記)につき次のように述べる。
本件予定地のような開析山麓面では、風化帯が原山麓面にほぼ平行に配列していることは極めて確実度の高い経験則であつて、本件予定地が第一報告書で述べたような風化度になつていることは地表調査によつても明らかである。
網干見解は地盤条件が悪い場合の工法として、本件予定地内に盆地状の凹地をつくり、凹地面上にはソイル、セメント工法による遮水工事を行うというが、山稜部の古期破砕帯の岩盤を掘削した場合、残留応力の解放に伴つて、いわゆる盤ぶくれが起こり、その上に廃棄物を埋め立てた場合、今度は圧縮が生じるということ、谷の埋積物も廃棄物の埋立によつて圧縮が起こるということ、これらの圧縮は一様でなく、遮水層を変形させるであろうということ、岩盤と埋積部との境界に遮水層の破損が生じる可能性が大きいこと、そのほか遮水層の経年変化の問題など未確定の要素が多く、理論的に可能であつても危険も存する。
以上のとおりである。
2控訴人は、小島証言及び報告書における岩盤地質についての所見に対するものとして、高橋、浦田報告書を挙げる。
その報告書の地質学の一般所見はもとより同じであるが、小島証言及び報告書の所見に反する部分を挙げると、例えば次のとおりである。
中国地方の花崗岩は深層風化を受けたもので、現在これが浸蝕を受けつつあり、したがつて、地表に平行して風化帯が分布するわけではなく、風化帯の厚さは局地的に変化が著しく、地表調査のみから明らかにすることは不可能である。
節理(岩体の規則的な割れ目)が開口しておれば、地下水の流路となり得るが、地下においては深さ三メートル毎に一気圧の圧力増加が起こるので、深部ではこの面が閉じている可能性が大きい。節理に粘土分が流入し全体として水を透しにくくなつていることが多い。
本件予定地付近の旧期破砕帯が、熱水変質を受けて粘土化していることは地表調査によつて把握できるが、これに加えて、風化作用がここに集中し、難ないし不透水性の粘土質マサになつており、また、熱水上昇と時を同じくして半花崗岩の貫入が起つており、このときは破砕部は固結し水を透さなくなつている。破砕帯が地下深部に達していても、破砕面に沿う粘土化も深部において進行し、これが地下で強大な圧力を受けているので、破砕帯があるからといつてそれが地下水の通路になるとは断定できない。
新期断層を観察すると、多くの場合断層粘土を挾んでおり、また、風化帯の粘土分が流入・充填しているので、離ないし不透水性になつている。
本件予定地の谷の一部は花崗岩の土石堆積物が分布し、地表部では花崗岩が風化しマサ状になつている。ごみ埋め立による地下水汚水を論ずるには、風化帯の厚さを更によく調査すべきである。弾性波探査やボーリングを行い、詳細な地下水状況を把握しないで、本件予定地が本件施設の不適地と断定することは早計である。
3控訴人は、本件要綱に基づいて埋立工事をすれば、本件施設から汚水が浸出することがなく、仮に小島証人がいうごとく、地盤条件が極めて悪ければ格別の埋立工法を用意しているとして、網干見解を挙げる。
網干見解は、花崗岩地帯の地盤内部の状況は必ずしも地表面からの観察のみで判定できないし、本件埋立工事の具体的設計のためには、地表地質調査に基づく定性的推論では不十分で、土質工学的定量的調査が必要であるとする。次に、本件要綱が挙げる排水処理対策その他の各項目を検討し、「現在の土木技術の中で十分な経験と信頼性を持つた方法であり、決して特殊な高度の技術を要するものではない。」「以上を総合して、要綱に定められた土木工学的な対策については、具体的な設計は詳細な土質調査の結果にまつことになるが、すじみちとしてはほぼ万全なものと認められる。」と評価し、最後に、地盤条件が極めて悪い場合の埋立工法につき、大要、控訴人の主張7項の(七)の内容と同旨を述べる。
一〇 控訴人の水道布設計画について
<証拠>によると、次の事実が疎明される。
控訴人は、戸山地区住民から本件施設の建設に伴い住民使用の井戸に有害物質を含む汚染地下水が浸出するという不安が表明されたので戸山地区に上水道を布設することを決定した。
その内容は次のとおりである。
給水区域は、沼田町大字阿戸及び大字吉山の一部で、吉山川を挾み、南は第一地図の本件予定地入口道路より上流(南)にある原垣内部落より、北(下流)は安佐町の境界に至る細長い(延長約4.7キロメートル)地域である。給水人口は一四〇〇人で、これをまかなうために必要な一日最大給水量は約六五〇立方メートルである。そして、現在既に上水道が布設されている沼田町伴地区から導入するもので、ポンプ所と調整池をそれぞれ二か所設けるとともに、導水管、送水管、配水管を合計約二万四五〇〇メートル布設して給水する。
控訴人はこの事業費として約一〇億円を見込んでおり、申請作業に着手して認可を得るには約一年、工事完成まで約三年が考えられる。
一一 総括的判断
1 被保全権利について
被控訴人らは、本件仮処分申請の被保全権利として、環境権、人格権、土地所有権、林道・里道通行権を主張する。
被控訴人らが環境権の根拠とする憲法一三条、二五条は、国の国民に対する責務を定めた綱領規定であり、これによつて個人の具体的権利が発生するものではないし、また、被控訴人らのいう環境権の具体的内容、すなわち、環境の内容と範囲、環境権者の範囲、差止めを請求できる環境破壊の程度なども明らかでないのであつて、環境権をもつて被保全権利とすることはできない。
人間は健康で快適に生活する権利、精神的に自由に生きる権利、すなわち人格権を有しており、これが妨害されるときは妨害排除請求権が発生する。したがつて、被控訴人ら主張にかかる人格権は被保全権利たり得るということができる。本訴においては、本件施設より発生する公害により、被控訴人らが主張するごとき人格権についての被害の有無が問題になる。
土地所有権が妨害排除請求権を有することはいうまでもない。ところで、所有権の被侵害利益として二つの面が考えられ、一つは所有権の財産的利益そのものであり、一つは人がこれを利用して生命健康を維持し快適な生活をする利益、すなわち人格的利益である。被控訴人らが被保全権利として土地所有権を主張するとき、後者の利益をいうのであれば(弁論の全趣旨からいつてそのようにとれるが)、右利益は前記人格権の内容と同じものであり、人格権に対する判断としてこれをすればよい。
しかし、被控訴人らが所有権の財産的利益そのものも被保全権利であるというのであれば、この点は本訴においては被害の疎明がないことに帰する。すなわち、控訴人において本件施設を建設する際には、本件予定地の土地所有権を控訴人が取得していることが前提であるから(それにつき紛議が生ずれば別途争うことになる。)、一般的にいうと、事前の現段階において、被保全権利として本件予定地の土地所有権を主張しても意味がない。そして、被控訴人らはこの点につき他に特段の理由のあることは主張立証しない。さらに、本件予定地外の周辺土地の所有権については、それがどこにあつてどのような理由から被保全権利となり得るかの具体的主張は全くない。以上の次第で、財産的利益そのものとしての土地所有権が、本件施設により被害を受けることの疎明は見出せない。
地区住民は、公道につき自己の生活上必須の行動を自由に行い得べき使用の自由権を有し、これが継続的に妨害されるときは妨害排除請求権を有する。ところで、被控訴人らが主張する原判決添付別紙第二図面記載の林道及び里道は、同図面で明らかなように、本件予定地及びその周辺の山林中に存するものである。そして、本件施設を建設する際には、本件予定地の土地所有権は控訴人に帰していることが前提であるから、その時点において、被控訴人らが本件予定地内に入るため、右林道里道を生活上必須のものとして使用するということはありえない。また、周辺の山林に至るについては、第一地図記載のごとく、控訴人において外周道路などを設置する予定であるから、これを利用すればよいことである。そこで、林道里道の通行権が被害を受けることの疎明もまた存しないこととなる。
2 受忍限度について
本件施設の建設により発生する公害が、被控訴人らの人格権を侵害し、それが客観的に違法といえるとき、被控訴人らは人格権に基づき妨害予防として本件施設建設工事の差止めを求め得る。そして、控訴人の右建設工事が違法であるというについては、本件施設によつて被控訴人らが被むるおそれのある被害が、社会生活を営むうえにおいて、一般人なら受忍すべきものと考えられる程度、いわゆる受忍限度を超えたものであることが必要である。
被控訴人らのいうように、人が生命、健康に被害を受けたときは、如何に些細なものであつても、ある意味では金銭によつて償いえないもの、他にかえ難いものといえ、したがつて、それに対する加害の違法性は強い。しかしながら、それだからといつて、人の生命、健康に対する侵害の場合は、始めから受忍限度を問題とする余地がないとはいえない。
本件において受忍限度を具体的に判定するに当たつては、双方の諸事情を比較衡量することになる。現代の市民生活が必然的に廃棄物を産み出してゆき、新たにごみ処理場を設置することは地方公共団体の責務でもあるし、広島市において現在その設置の必要があることは六項において認定したとおりである。他方、控訴人がごみ処理場建設のため本件予定地を選定した経緯は七項において認定したところで、決して本件予定地がこれに最適であるというのではなく、多分に偶然的なものが作用している(もつとも、ごみ処理場建設に当たつては、地形、地質、位置などの物理的あるいは社会的条件において、なるべく住民に被害を与えない場所を選定すべきであるが、すべての条件が最適であることまで保証される必要はない。このような大規模施設においては、安全条件を綿密詳細に調査するだけでも年余の期間が必要であり、最適地でない限りそこに設置しえないとなると、調査しては断念するということの繰返しになる可能性がある。)。そして、本件予定地が選定されることにより、地区住民は多数の者のために犠牲になるという関係にあることも否めない。なお、公害対策基本法に基づく環境基準など公法的規制の数値も、受忍限度の重要な判断要素の一つであるところ、右数値を参酌するについては、戸山地区の自然的社会的条件につき十分注目すべきである。すなわち、既に相当程度環境が破壊されている場所への設置と、それがない戸山地区への設置の場合につき、右数値を機械的形式的に採用して論ずると、戸山地区に対し大幅な環境破壊を許すことになる。
本件においては、これらの事情を総合勘案し、本件施設により被控訴人らの受ける被害についての受忍限度を判断することになる。
3 立証責任について
被控訴人らの人格権が受忍限度を超えて侵害される蓋然性があるかどうかの立証責任につき、控訴人は、民事訴訟の原則からいつて差止めを求める被控訴人らの側にあるのは当然と主張し、被控訴人らは、本件施設に関する資料、被害解明の科学的手段、資力を控訴人が一方的に有するので、被控訴人らにおいて、通常人が抱くであろう公害発生のおそれを一応疎明した以上、控訴人が合理的反対疎明をしない限り公害発生ありと判断すべきであるという。
事前差止めを求める場合は、被害が現実化していないため、被害発生の過程、その因果関係を把握するのが困難であり、殊に公害訴訟の場合、一般的には、建設者が調査の対象、資料、能力、資力を手中にし、申立人はその領域に立ち入れないという事情が存在する。
しかし、公害訴訟も民事訴訟の一種であるから、相手方の行為により被害を受ける蓋然性のあることの立証責任は、これを主張する側に存在する。ただし、立証の難易につき双方に前記のような差異が存する関係から、公平の観念上、心証形成の過程において、双方の証拠資料の証明力の判定につきおのずから配慮することになり、本件においても同様である(もつとも、本件においては、調査能力、調査資力に相当の差はあるけれども、本件予定地は被控訴人らの眼前にその物自体として提供されており、本件施設の計画内容も明らかにされているのであつて、被控訴人らとしても自ら調査し資料を得ることができないわけではない。また、後に述べるごとく、控訴人の企図した第二次環境調査は地区住民によつて拒否され、控訴人が資料を得ることが困難な事情にある。)。
4 水質汚濁について
(一) 本件において最大の問題は、本件施設より汚水が浸出して地下水を汚染することがあるかどうかの点である。それは、本件予定地の地盤地質に関係し、地下のことであるから調査が困難であるということ、水は人間生活に密接しているということ、いつたん地下水汚染が生じた場合防禦が困難であるということからである。
(二) 小島第一報告書の本件予定地の地盤地質についての結論は、九項の1の(四)で述べたとおりであつて、本件予定地の地盤の風化層が薄く、古期破砕帯、新期断層が存在するので、埋立によつて谷1と谷2では地下水汚染を惹起することは確実であり、谷3ではその可能性が大きく、その汚染は吉出川断層破砕帯(F1断層)を通じてこの地帯の地下水の水質汚濁を招く、右のごとく本件予定地は本件施設建設に不適格という結論に達しているのであるから、本件予定地を追加調査する必要はない、というのである。
小島証人の証言態度からして、学者的誠実さをもつて原審当審で証言し、第一、第二報告書を作成したことを認めるにやぶさかではない。しかし、次のような疑問も禁じえない。
一つは、原審証言の全体的調子と当審で提出された第一報告書の結論との違和感である。右報告書は、右のように割に断定的に結論し、もはや本件予定地を再調査する必要はないという。一方、原審証言では、本件予定地に風化層が薄く、断層破砕帯の存在する可能性があることは述べるのであるが、それは断定的でなく、更に調査の必要があるとする。
原審の昭和五二年五月一八日期日の証言では「右側の二つの谷について適地といい難いのか」との質問に対し、「適地とはいい難いというのではなしに、ケラーのものに書いてありますように、岩盤の調査を非常に正確にする必要があるというふうにいわれています。」と述べ、昭和五二年六月八日期日の証言では「本件予定地が本件施設建設の条件を満たしているか」との質問に対し、「今の時点では、結論的に満たしているか満たしていないかは専門家としては確言できかねる状態です。」と述べ、昭和五二年九月二一日期日の証言では、「少なくとも、航空写真でみられる範囲では、岩盤までの間に不透水性の地層が三〇フィートあるところというのは、おそらく丘陵地の比較的傾斜のゆるやかなところぐらいに限られるのではないかという、そういう判断なんです。ですから、適地とか不適地ということを私いまの段階で、この間の証言でも申しあげましたようにいつてはおりませんので、適地、不適地ということではなしに、ここはやはり岩盤の調査をきちんとやらなくてはいけない、そういう点が事前調査において欠けているという点を申し上げたわけでございます。」と述べ、同日の別の所では、「破砕帯が存在することはかなり高度に確かであるということになるか」との質問に対し、「要するにここ(控訴人提出にかかる株式会社プランド研究所作成「広島市北部埋立事業に関する修正診断」(乙第四八号証)の九五頁にある地図の想定破砕帯)に書いてあるとおりに、想定されるわけである。」との趣旨を述べる(右診断には「この線上(本件予定地をつつむ外周の山)に沿つて破砕帯等が存在すればボーリング調査を実施し、その諸元を確実に把握することにある。」と書かれていて、その文脈からいつて、「想定」とは文字どおりの想定とみえるから、小島証人は破砕帯の高度の確かさを否定しているとみられる。)。
小島証人が第一報告書を作成するに当たり、あらためて現地を二日間調査し、最近における水文地質学の成果を採り入れていることはその証言のとおりであるが、それにしても、右報告書の断定的な結論と原審証言の全体的調子の差は大きく、右証言内容からして、右報告書の結論に疑問を持つことを禁じえない。すなわち、本件予定地の地質が本件施設の建設に不適格というについては、更に調査の必要があるのではないか、ということである。
次に、小島証人は当審の昭和五九年四月二〇日期日の証言において、「広島花崗岩の中の山麓面は破酔帯が発達しているのが一般的傾向で、戸山も一般的傾向に入る。」「戸山地区が特に他の山麓面と違う点はない。」と述べている。すなわち、本件予定地がごみ処理場に不適当な地質条件を持つていると結論するのであるが、その条件はこの地方の山麓面一帯につき同じであるというのである。そうであるなら、広島地方の山麓面にはこの種の施設を建設する個所が皆無ということになるのであるが、そのことは、小島報告書の本件予定地が不適地という意味は、どこにも適地がないという程度の不適地、すなわち本件予定地は格別不適地であるという強い意味ではないということになる。(小島報告書及び証言における細部の判断過程は極めて専門的なことで、軽々に論ぜられないが、例えば、破砕強度の判定に使用し得る花崗岩基盤の露頭は谷1においては一か所しか得ることができなかつたということであるが(九項の1の(二))、それで谷1が破砕強度A級(一部AA級)ないしB級と判定できるのであるか、また、裂か地下水の汚染はF1断層に及び、これによつて戸山地区の深井戸を汚染すると結論し、他方ではF1断層の確実度は余り高くなく五〇パーセントぐらいというが(九項の1の(四))、この関係はどのように理解すべきであろうか。)。
(三) 高橋、浦田報告書は、小島証言及び報告書に対し批判的見解を述べ、弾性波探査など更に詳細な調査なくして本件予定地が本件施設の不適地と断定できぬという。
控訴人は八項で述べたように、本件要綱において、本件施設より汚水が浸出し被控訴人らに被害を与えることのないようにと具体的な計画を立てており、浸出水の良質化対策(重金属溶出の可能性あるものは一定の場所に区画埋め立て、特別監視をする、準好気性埋立構造を採用するなど)浸出水発生最低減対策(上流に堰堤を築造して埋立地への雨水の流入を防止する、雨水排水溝により雨水調整池に排水するなど)、浸出水の滞留防止対策(埋立地底に集排水管を布設し調整池に導入するなど)、地下拡散防止対策(埋立地末端擁壁、埋立地底部に効果的な工事をするなど)、放流先河川の汚濁防止対策(浸出水を調整池に集め処理した後放流するなど)、搬入、埋立の管理対策(搬入物の確認、分析検査、廃棄物の性質に応じた区画埋立など)等を明らかにし、更に第二次環境調査の結果をまつて、より精度の高い対策を講ずるとしている。
網干見解は、仮に小島証言の結論のような地質的悪条件があつても、本件施設から汚水が浸出するのを防止する土木工学的方法があるといい、控訴人はこのような条件の場合は右見解に従つた工事を施工するという。さらに、控訴人においては、戸山地区に水道を布設し、少なくとも戸山地区住民が飲料水によつて健康に被害を受けることのないようにするという。
(四) 先行埋立三地区のうち、三滝埋立地の水質汚染にはかなりのものがあること、他の二地区については、現在あらわれている資料では、ある程度の水質汚染はあるもののそれ程高度のものといえぬこと(瀬野川埋立地付近の民家井戸水は全く汚染されていない。)はさきに認定した。また、控訴人においては、従前の経験を生かし新しい企画で本件予定地につき被害防止対策を講ずるとしていることは前記のとおりである。ところで、先行埋立地の水質汚染が極めて高度悪質であるときは、建設者が新しい企画で防止対策を講ずるといつてもそれは期待できないということがあり得る。しかしながら、右先行埋立三地区の水質汚染の程度は、少なくとも、控訴人が本件予定地につき計画している防止対策の効果が、頭から信用できぬという程悪質なものであるとは到底いえない。
次に、<証拠>によると、ごみ焼却場の焼却灰からダイオキシンが検出されたこと、あるいは廃棄物中に不用意に乾電池が混入されるため、ごみ埋立地から有機水銀が検出されたことが伝えられている。廃棄物から生ずる有機物質の中には、現在の知見では把握できていない更に危険なものの存在があり得るし、また、現在の法規において定められている有害物質の検定方法では不十分であつたということが判明するかもしれない。これらのことは、施設の建設者としては十分に心にとめおくべきことであり、建設に当たつては念には念を入れるべきであるといえる。しかしながら、これら未知の危険があるからといつて、ごみ処理場の建設が一般的に許されないといえぬことはいうまでもない。
そこで、前述の諸点を総合勘案すると、本件施設より有害物質を含む汚水が浸出し、これが地下水を汚染して、被控訴人らの生命、身体、健康に受忍限度を超える被害を与えることの蓋然性は未だ疎明されていないということになる。
5 土石流発生について
被控訴人らは、本件予定地内の谷3は土石流多発の歴史を持つこと、西方の山の頂上付近は変成岩によつて覆われていて風化がなく、周辺の花崗岩の風化によつて傾斜が急になつてゆくこと、本件施設建設のための森林伐採が土石流の発生を容易にすることを挙げ、土石流発生の可能性があつて、これが本件施設を破壊し汚染物質を拡散させる蓋然性があると主張する。
小島証言及び第一報告書によると、本件予定地周辺の地形が右の状態にあることが疎明され、小島第一報告書は「このような斜面は崩壊を起こし易く、大雨の時に斜面崩壊が発生すると、これが引き金となつて溪床堆積物を巻き込んで土石流に発展する。」と述べる。永い年代の間には、土石流の発生の可能性があることは否定できないとしても、控訴人において、万一のことに備え、付近必要個所に砂防堰堤を設置するなど土石流防止対策を考えていること、本件予定地につき地盤の安定化対策を考えていることは八項において認定したとおりであるし、小島第一報告書も、広島地方の山麓面で、本件予定地が格別土石流発生の可能性を持つとはいつていないのであり、かような点からいつて、土石流が本件施設を破壊することにより汚水が浸出し、被控訴人らが受忍限度を超える被害を受けることの蓋然性は疎明されていないといえる。
6 大気汚染、臭気・ガス発生について
三滝、戸坂、瀬野川の埋立地区において悪臭のある有害物質が発生したことがあること、昭和四九年または昭和五〇年の大気測定においては、三滝埋立地の測定値は各物質につき環境庁告示の基準以下であり、むしろ市街地より良好であること、戸坂埋立地では、各物質とも平均値は基準以下であるが、四物質の最大値が基準を超えたこと、瀬野川埋立地では光化学オキシダントと浮遊粒子状物質が基準を超えたことがあつたが、他の物質は基準以下であることはさきに認定した。
控訴人は本件要綱において、廃棄物から発生するガスは、その中の有機物が土壌微生物によつて分解される過程で生じるものであるところから、本件予定地では生ごみは埋め立てないとし、また、本件予定地には準好気性埋立工法を採用し、ガス抜き孔を設けるなど、大気汚染、臭気、ガスの防止対策を講ずるとしている。
戸山地区には大気のいわゆる逆転層があるので、被控訴人らが本件予定地付近に悪臭や有害物質が発生することを憂うるのは理解できるが、先行埋立三地区の前記現況が高度の環境破壊とまでいえず、控訴人においては、新しい企画で本件予定地に被害発生のないよう対策を講ずるというのであるから、いまだ、本件施設から発生する大気汚染、臭気、ガスによつて、被控訴人らが受忍限度を超える被害を受けることの蓋然性は疎明されていないといえる。
7 騒音、交通問題について
二項で述べたように、控訴人は戸山地区を通る県道久地・廿日市線を利用して、午前八時半から午後四時までの間に、一日当たり搬入開始時で七〇台、搬入終了時で一〇〇台の搬入車両を動かす計画をしている。大型ごみ運搬車が静かな農村を出入りするのであるから、これがまきちらす騒音や塵埃が地区住民を困惑させ、交通事故の一因となることがあるかもしれない。
しかし、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第五七号証によると、観測地点を沼田町戸山一四三二番地とする昭和五五年度交通量調査結果では、右県道を昼間一二時間に一二一五台の通行車両があつたことが認められるので、本件施設を建設することにより、騒音や塵埃が無から有になる程変るのでなく、程度の問題であることが知られる。控訴人において、右県道を一部拡幅する計画のあることもさきに認定したとおりであるし、騒音や交通問題によつて、被控訴人らが受忍限度を超える被害を受けることの蓋然性は疎明されていないといえる。
8 被害発生の蓋然性についての結論
被控訴人ら主張の個々の被害についての判断は右のとおりである。そして、個々の被害については受忍限度を超えるといえなくとも、総合すればこれを超えるといえる場合もある。ところで、受忍限度や立証責任につき本件につき配慮すべき点のあることは前述した。これらの点を十分考慮しながら、被控訴人ら主張にかかる人格権に対するもろもろの侵害について総合考察するに、やはり、受忍限度を超える被害を受けることの蓋然性はいまだ疎明されていないといわざるをえない。
9 環境影響評価と第二次環境調査について
被控訴人らは、控訴人が本件予定地を選定するにつき、いわゆる環境アセスメント(環境影響評価)の手順を踏んでいないと攻撃する。
環境影響評価についての立法は未だなされていないけれども、本件施設のごとく、住民に対し被害を与えるおそれのある施設を建設しようとする者は、事前に環境影響評価をなし、住民の意見を聞くのが相当である。しかしながら、被控訴人らの主張するごとき形態の環境影響評価がなされていないからといつて、本件施設の建設が違法性を帯びるということはない。
ところで、成立に争いのない乙第六五号証の一ないし六によると、昭和五〇年一二月一二日控訴人側が本件予定地につき第二次環境調査をしようとしたところ、地区住民の実力行使に遭つてこれが実行のできなかつたことが疎明される。被控訴人らは環境影響評価の理想形態を主張し、右日時に企図された第二次環境調査は右理念に程遠いものというが、仮にそうであつても、相手方の行為が外形上不法行為であることが明らかでない限り、自己の意に満たないからといつて、実力をもつてこれを阻止することは許されない。それは法治国の国民として当然のことである。
10 控訴人の行政対応などについて
本件予定地に本件施設が建設されるならば、それが被控訴人らに対する違法性のあるものといえなくとも、程度の差はあれ、戸山地区の環境を破壊するであろうことが予想される。そして、本件施設のため本件予定地が選定されたのは、ここをおいては他に適地が全くないとか、本件予定地が最適の条件を備えているからということでなく、ある種の偶然も作用している。戸山地区において自然環境が保たれている現在、被控訴人らが、自然と故郷を守るという意識から、本件施設の建設に反対しても責められない。控訴人においては、これらの事情をわきまえ、前項でも述べたごとく、戸山地区住民と十分に話し合い、その理解を得るべく努力すべきである。
本件施設より受忍限度を超える被害があることの蓋然性の疎明がないということは、もとより、本件予定地が適地であるといつているのではなく、適地であるかどうかはなお第二次環境調査の結果にまつべきものである。控訴人は、第二次環境調査を実施した暁、本件予定地に本件施設を建設することを中止することもあると述べているが、調査の結果次第では、かような処置がいさぎよく採られることが望ましい。
一二 結論
被控訴人らが主張する被保全権利のうち、環境権は被保全権利とすることができず、財産的利益そのものとしての土地所有権や林道里道通行権が、本件施設の建設により被害を受けることの疎明はない。そして、被控訴人らが生命、身体、健康を維持し快適な生活をする権利が、本件施設の建設により受忍限度を超える被害を受けることの蓋然性もまた疎明がない。
以上の次第であるから、その余の点について判断をするまでもなく、本件施設建設工事の着手及びその準備作業の差止めなどを求める被控訴人らの本件申請は、すべて理由がないので却下すべく、これと異なる原判決中の控訴人敗訴部分を取消し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(竹村壽 高木積夫 池田克俊)